そこでTCCでは全国の乗馬クラブや牧場に引退馬を預託しており、現在、約30頭がそれぞれの個性に合った新たなキャリアを積んでいる。今後はテーマパークや観光施設などでも活躍できるよう、働きかけも行っているという。

 預託料などの必要経費は、会員制ファンクラブに登録した約2千人のファンからの支援会費でまかなっている。競馬ファンを主とした会員の中には、活動の趣旨に賛同した現役騎手や調教師、馬主などもいる。

 引退競走馬の支援活動はこれまで、個人、団体を問わず全国各地で行われてきた。しかし、持続的に取り組んでいる団体に限れば、馬の余生をさまざまな形で支援する「引退馬協会」や、再調教を専門的に行う「サラブリトレーニング・ジャパン」など、数えるほどしかない。

 というのも、競走馬は早ければ2~3歳で競馬界から引退する。サラブレッドの寿命は30年程度であるため、引退後20年以上生きることになる。いくら情熱や使命感があっても、飼料代等の経済的負担が重くのしかかってくるため、支援し続けられなくなるケースが多いという。

 山本さんは、引退馬の活躍の場を広げることが、事業の継続につながると考えている。

「昔の日本で移動や運搬を助ける労働力だった馬は、精神面でも人々の暮らしを支えていたと思うんです。実際に、紀元前5世紀のギリシャで馬が傷ついた兵士を癒やしたという文献も残っている。馬が、世のため人のためになる動物だと気づいてもらえれば、おのずと居場所は増えていくと確信しています」(山本さん)

 馬と共に社会をゆたかに──。「馬のまち」栗東からTCCが発信するメッセージは、人と馬の共生という、ダイバーシティーのあり方を示している。(ライター・中道達也)

AERA 2020年3月23日号より抜粋