甲子園には出場できず、日本代表として臨んだU-18W杯もわずか1イニング、19球で終えた。誤解を恐れずにいえば、佐々木は高校野球に何も足跡を刻めなかった。だからこそ、何げない次の一言が重たく響く。

「これがスタートラインだと思う。日本一のピッチャーに、チームを優勝に導けるようなピッチャーになりたい」

 一方、3球団がクジを引いた星稜の奥川恭伸も、代名詞となった「必笑」ではなく厳しい表情で見守った。奥川の場合は佐々木と異なり、「即戦力」と期待されての1位指名。東京ヤクルトの期待に応えられるのか、自身の将来を案じて当然だろう。

 甲子園に春夏通算4回出場し、最後の夏は準優勝に輝いた。最大の武器は、最速154キロの直球やスライダー、フォークボールを、コースの四隅に投げわけられ、簡単には四球を出さない制球力だ。プロのスカウトが評価する「安定感」と「完成度」。だが、未来が広がる18歳の伸びしろにこそ期待したい。奥川には投球時、右足が突っ立ってしまう悪癖がある。もう少し右膝が沈み込むような身体の使い方ができたら、よりスピンの利いたボールがいくようになるだろう。

 佐々木、奥川と共に「高校四天王」と呼ばれた創志学園(岡山)の西純矢と横浜(神奈川)の及川雅貴は、そろって阪神に指名された。

 とりわけ西は、夏の甲子園に出られなかった悔しさをU-18W杯にぶつけ、投打に活躍したことが1位指名につながった。昨夏の甲子園、派手なガッツポーズで咆哮する姿が批判されたが、「バッシングが自分を成長させてくれた」と話す。

 いち早く大輪の花を咲かせるのは奥川か、佐々木か、それとも──。まさしく彼らはスタートラインに立った。(ノンフィクションライター・柳川悠二)

AERA 2019年10月28日号