そのリポートをパラ陸連に提出したところ、栄養サポートの必要性が認められ、シドニーには車いす陸上の栄養コーチとして帯同。北京、ロンドンでは日本選手団本部役員として選手を支えた。内野は言う。

「障害者アスリートには健常者の栄養学が通用しない部分があり、ベストな状態に持っていくために配慮すべき要素が多い。健常者以上に栄養サポートが肝心かもしれない」

 16年のリオ大会で初の銀メダルに輝いたボッチャ日本代表。勝因の一つが情報戦を制したことだと言われる。15年からスポーツアナリストとしてボッチャをサポートする渋谷暁享(31)によると、リオの前には各国のデータを集めると共に日本チームの戦術も分析。パラリンピック前の国際大会ではあえて日本の戦術を封印し、本番で得意の戦術を解禁した。

「データを持っていない相手国が混乱する中、有利な展開で大会を勝ち進むことができました」

 練習や試合の映像を撮影、分析し、選手や監督にデータとして提供するのが主な役割だ。以前、日本スポーツ振興センターのスタッフとして五輪競技の専任スタッフもしていたが、その経験がそのまま生かせたわけではなかったという。

「パラの選手たちは体形や障害の度合い、体幹の状態などがそれぞれ異なり、パフォーマンスを上げるためのアプローチ方法も千差万別。だからこそパフォーマンス分析が重要になります」

 大学院で動作分析を学んだ渋谷は、投球の際の重心や腕の振り、体のねじれ、ボールの速度や放物線の角度などを分析。車いすの振動やぶれ、電動バッテリーの位置などの影響で、ボールに伝えるべきパワーが逃げてしまっていることも見抜いた。

 日本代表のエースの一人、廣瀬隆喜(34)はその助言を受けて、初めて競技に特化した車いすを製作した。投球の際の腕の振りも、以前は前に投げることを意識していたが、後ろに強く引いて反動を利用するようにした。廣瀬は言う。

「渋谷さんが分析したデータを選手、監督やトレーナーなどと共有し、トレーニングに生かす中で確実にグレードアップできている。戦術面でも、自分の試合勘に頼るだけでなく全体を見られるようになってきました」

 選手の力や動作の分析を通じて、彼らの限界ラインを引き上げている。(文中敬称略)(編集部・深澤友紀)

AERA 2019年8月5日号より抜粋