【5大会で代表帯同 この道20年の先駆者】管理栄養士 内野美恵さん(52)/パラ選手たちへ栄養サポートを続けて20年以上。健常者の栄養学が通用しない部分も多く、試行錯誤しながらデータを積み重ねてきた(撮影/写真部・小山幸佑))
【5大会で代表帯同 この道20年の先駆者】管理栄養士 内野美恵さん(52)/パラ選手たちへ栄養サポートを続けて20年以上。健常者の栄養学が通用しない部分も多く、試行錯誤しながらデータを積み重ねてきた(撮影/写真部・小山幸佑))
【敵を知り己を知れば限界を超えられる】スポーツアナリスト 渋谷暁享さん(31)/ボッチャなど複数のパラ競技で、練習や試合の映像を撮影、分析して選手や指導者にフィードバック。戦術立案のためのデータも収集する(撮影/横関一浩)
【敵を知り己を知れば限界を超えられる】スポーツアナリスト 渋谷暁享さん(31)/ボッチャなど複数のパラ競技で、練習や試合の映像を撮影、分析して選手や指導者にフィードバック。戦術立案のためのデータも収集する(撮影/横関一浩)

 開催まで1年を切った東京五輪・パラリンピック。選手たちがベストパフォーマンスを発揮できるように支える人たちがいる。

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メディアでパラ選手が健常者のアスリートと同じように紹介されるようになるにつれ、障害者としての側面が見えにくくなってきたが、やはり障害が競技に及ぼす影響は大きい。パラ選手を支える人に話を聞くと、彼らがどう困難を克服しようとしてきたのか知ることができる。

 オリンピックでもまだ栄養サポートが当たり前でなかった20年以上前から、パラ選手への栄養サポートを行ってきたのが東京家政大学准教授の内野美恵(52)だ。

 95年、障害者スポーツを取り上げた雑誌の片隅に、パラ陸上クラブのボランティア募集を見つけた。当時、大学院で栄養学を学ぶ傍ら、ボランティアで自転車ロードレースの栄養サポートをしていた経験と知識が生かせると思い手を挙げたが、

「何か教えるなんてとんでもなかった。選手に『教えてください』と言うのがスタートでした」

 まず、車いすをこぐときのエネルギー消費量を知りたいと思った。車いす陸上の選手だった千葉祗暉(57)に練習で汗をどのくらいかくか測らせてほしいと頼むと「頸髄損傷なので自律神経をやられちゃって、汗はかかない」と言われた。

 慌てて国立国会図書館などで文献を探すが障害者スポーツに関する研究データや基準が全くない。トライ&エラーの日々が始まった。

 汗をかかないと聞いて提案したのがかき氷。口に含んで粘膜を冷やしてもらうことで、熱中症を予防した。また、千葉は障害の影響で低血糖にもなりやすく、練習や競技の途中で動けなくなることがあった。

 練習の何時間前に、どんなものを食べると血糖値が下がりづらいか一つ一つ試して食べ方を見つけ、千葉は7年ぶりに自己記録を更新。世界選手権で銀メダルも手にした。

 内野は96年のアトランタでパラ陸上日本代表を栄養サポート。98年の長野ではアイススレッジスピードレースの選手たちにコンディショニングを指導し、金九つを含む32個のメダル獲得に貢献した。

「食事の課題を自覚してコンディショニングに気をつけていた選手ほど、好成績でした」

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