いま、村岡さんは無職。仙台市の区役所で5年間働いた後、仙台市社会福祉協議会(社協)に就職し障害者施設で働き始めた。雇用形態は以前と同じ非正規の契約社員。しかし5年近く働いた昨年3月、「雇い止め」に遭った。村岡さんは雇い止めに合理的な理由はなく無効だとして、地位確認を求め仙台市社協を提訴。裁判に集中するため仕事はしておらず、仲間からのカンパで生活している。将来が描けないままでの奨学金の返還は厳しい。

「本当にどうしようもなくなったら、自己破産しなくてはいけないかもしれません」(村岡さん)

 元奨学生が返還するお金は、次の世代の奨学金の原資になる。だが、返せずに自己破産に至ったケースは16年度までの5年間でのべ約1万5千件に及ぶ。奨学金問題に詳しく『奨学金が日本を滅ぼす』(朝日新書)の著書がある中京大学の大内裕和教授(教育社会学)は、返還猶予に年限が設けられていること自体が問題だと厳しく批判する。

「10年間の猶予期間を使い果たしてしまえば、返還義務が発生します。その時に本人の経済状況が改善していればともかく、改善していなければ、返したくても返せない。そうなると延滞したり、他から借金をするなど多重債務に陥る危険性が高まる。これでは、利用者の救済制度として極めて不十分です」

 そもそも猶予に「期間」を設けているのはなぜか。日本学生支援機構は本誌の質問に、

「経済的事由については、10年の期間があれば解消されると見込んでいる。また、期間がない場合にはモラルハザードが発生する懸念がある」

 などと説明。だが、今は非正規で働く人が労働者全体の4割近くを占め、彼らの賃金カーブはほとんど上昇しない。先の大内教授は言う。

「期間で区切るのではなく、たとえば年収300万円以下など、本人の年収を基準とし、一定の年収以下の者の返還を猶予すべきです」

 この点について同機構は、

「関係機関と相談しつつ、奨学金返還者が返還しやすい環境の一層の整備に努めて参りたいと考えております」

 との回答にとどまっている。

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