奨学金問題対策全国会議事務局長で『「奨学金」地獄』(小学館新書)の著書もある、せたがや市民法律事務所(東京都)の岩重佳治弁護士は、この問題は今後、ドミノ式に深刻になっていくだろうと警鐘を鳴らす。

「返還に困った時に日本学生支援機構に電話をしても必ずしも適切な対応は期待できない。相談窓口は外部委託されていて、複雑な救済制度を駆使して本人に最善の救済を求めるのは困難。そもそも、日本学生支援機構は借り手の側に立って自己破産を勧めたりしません。返済に行き詰まったら、躊躇なく、私たちのような奨学金に詳しい弁護士などに相談してほしい」

 いま、返還期限猶予制度の適用が認められているのは、約30万件(17年度)。

 岩重弁護士のもとには、奨学金で借金漬けになった幅広い層からの相談が来る。先日も、病気のため返還猶予を繰り返していた70歳の女性が相談に来た。傷病の場合、猶予期間に制限はないものの、猶予してもらうには毎年、医師の診断書が必要となる。女性は診断書をもらう費用が負担となり、10年近く放置していたら機構から裁判を起こされた。相談を受けた岩重弁護士は救済策を練り、女性が返還免除を受ける手続きを進めている。岩重弁護士は言う。

「大事なのは、当事者があきらめず、救済してもらおうと思うこと。奨学金問題対策全国会議に相談してくれれば、100%の要求が通らなくても、最善の解決はできます」

(編集部・野村昌二)

AERA 2019年6月24日号

著者プロフィールを見る
野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

野村昌二の記事一覧はこちら