村岡靖昭さんのもとに届いた「奨学金返還期限猶予期間の終了と返還開始のお知らせ」。村岡さんは、「その時々の時代にあった返還方法にしてほしい」と話した(撮影/写真部・張溢文)
村岡靖昭さんのもとに届いた「奨学金返還期限猶予期間の終了と返還開始のお知らせ」。村岡さんは、「その時々の時代にあった返還方法にしてほしい」と話した(撮影/写真部・張溢文)

 最長10年設けられていた奨学金の猶予期間が今年から順次、終了する。だが10年経っても、経済的に困難な状況が解消せず、返済できない人が多くいる。

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 猶予期間は今年1月に切れた。

「決められた額を返済していくのは非常に厳しい。生活のことで言うと、不安しかないです」

 仙台市に住む村岡靖昭さん(38)は、苦しい胸の内を明かす。日本学生支援機構から借りた奨学金の返還猶予が終わり、翌2月から月々の返済が始まった。

 村岡さんは、静岡県内の高校から1年浪人して東北大学に入学、休学期間を含め7年かけて卒業した。授業料を補うため月約5万円の有利子の奨学金を日本育英会(今の日本学生支援機構)から借り、借入総額は、約185万円になった。

 借りる時は、卒業してそのまま就職すれば返していけるだろうという算段があった。しかし、公務員を目指したがかなわず、仙台市内の区役所で非正規職員として働くことになった。同時に、奨学金の返済が始まった。

 収入は手取りで月10万円ほど。そこから毎月約1万1500円を返済していった。決して返済不可能な額ではないが先々のことを考えると不安になり、半年近く返し続けた後、返還期限猶予制度を利用することにした。猶予期間は当初5年だったが、14年4月から延長されて10年に。しかしその10年が今年1月で終わったのだ。

 返還期限猶予制度とは、日本学生支援機構から借りた奨学金の返還を、病気や被災、経済的に困難──などの理由で、1年ごとに延ばすことができる仕組み。経済的に困難な状況の場合、給与所得者であれば年収300万円(税込み)以下、自営業などは年間所得200万円(同)以下が適用の目安となる。

 最長10年の猶予を受けた人が今年から順次、タイムリミットを迎える。生活保護受給や傷病などの理由をのぞき再度の猶予は認められず、元奨学生を襲う「2019年問題」として注視されている。

 先の村岡さんはそんな一人だ。猶予期間が切れた今年1月末時点で、返還残額は約180万円。翌2月から再び返還が始まった。最初の1カ月だけは減額措置で約3700円だったがそれも一度きり、3月からは元の約1万1500円に戻った。その額が以前より重くのしかかる。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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