DS学部の人気沸騰の背景にあるのは言うまでもなくビッグデータやAI(人工知能)に対する関心の高まりだ。DSは統計学や情報学に加え、社会課題やビジネスなど文系領域も横断的に学ぶ。これまでは基礎となる統計学を学びたくても、日本には「統計学部」が一つもなく、専門家も経済学部や工学部、理学部などに分散していた。そのことが、DS人材の育成がアメリカなどに比べて著しく遅れている要因とも指摘されてきた。

 アエラは今回、DSで勢いづく3大学を、武蔵野のMU、滋賀のS、横浜市立のYCをとって、MUSYC(ミュージック)と名づけた。これまでは東京大学を頂点とする偏差値ピラミッドで「旧帝大」「MARCH」「関関同立」などとグループ分けするケースが多かったが、駿台教育研究所進学情報事業部長の石原賢一さんによれば「偏差値による大学選びは終わりに向かっている」。MUSYCの台頭はその象徴とも言える。偏差値的には他大に行く選択肢もありながら、「データサイエンスを学びたい」という明確な意思でその大学を選んだ学生が多いからだ。

 それにしても、滋賀県彦根市という全国的にはマイナーな地にありながら、北海道や鹿児島などからも学生を引きつける滋賀大の強みは何なのか。

 特筆すべきは、日本ではDSを教えられる教員の絶対数がそもそも少ない中で、幅広い分野から第一線の研究者が集まっている点だ。大阪ガスから着任した前出の河本教授しかり。清水昌平教授(42)も看板教授の一人だ。専門は「統計的因果推論」。膨大なデータから、原因と結果の関係を見いだす「線形非ガウス非巡回モデル」を開発したことで知られる。そのほか、医学や社会学などの分野で活躍してきた教員もいる。

 こうした名うての研究者を束ねるのが、竹村彰通データサイエンス学部長(67)だ。竹村学部長は、東大大学院情報理工学系研究科で教鞭(きょうべん)をとり、日本統計学会会長も務めた重鎮だ。そんな大物を滋賀大に招聘(しょうへい)したのは佐和隆光・前滋賀大学長。長らく京都大学で経済学を教えた佐和氏は10年に滋賀大に転じたが、15年に文部科学省が文系学部の廃止・縮小方針を打ち出したことに猛反発。当時、経済学部と教育学部の2学部しかなかった滋賀大を存続の危機から救う一手として「日本初のDS学部構想」をぶち上げた。そして、東大経済学部のゼミの後輩で全幅の信頼を寄せる竹村氏に熱烈なラブコールを送ったのだ。

 幅広い分野の研究者が揃ったことは、「滋賀大モデル」ともいえる好循環を生み出すことにつながった。竹村学部長は言う。

「データを活用したい企業や団体から、受託研究や共同研究の依頼がひっきりなしに来るんです。研究分野がバラエティーに富んでいるので、『滋賀大に行けば相談に乗ってもらえるのでは』と期待されているようです」

 開設3年目にして連携する企業、自治体は100を超す。連携先と組むことによりコンサルティングなどの収入が急増し、18年度は7359万円に達した。この資金を元手にさらに優秀な教員を雇い入れた結果、1学年100人の学生に対し、現在教員は34人。年々予算が削減され、新たな教員を採用するのが難しいと嘆く国立大が多いなか、これは異例のことだ。

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