2019年度入試の結果が揃った。大学勢力図に異変が起きている。台風の目になったのはデータサイエンス。現在、日本国内でデータサイエンス学部があるのは3大学だけだ。ビッグデータ解析に欠かせないデータサイエンスに、学生も企業も熱い視線を送っている。
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昨年の夏休み直前、福井県の進学校、武生(たけふ)高校3年生だった河口泰士(たいし)さん(18)は大きな決断をした。理系から文系に転じる、いわゆる「文転」だ。
理由は「滋賀大学データサイエンス学部に行くため」。それまで力を注いでいた難しい物理や化学は、同学部の受験に不要だからやらない。その代わり、同学部が掲げる「文理融合の学び」に備えて、社会科の勉強、とりわけ「現代社会」をしっかり勉強することにした。同大一本に絞る覚悟でのシフトだ。
「データサイエンス学部? え、そこが第1志望?」
友人からは不思議がられたが、決意は揺るがなかった。データサイエンスに興味を持ったのは、高3に上がる直前、各界一流のプロの仕事を取材するNHKのドキュメンタリー番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」を見たのがきっかけだ。「新しい仕事」を扱った回で、今世紀最も魅力的な職業として「データサイエンティスト」が取り上げられていた。日々生まれる膨大なデータを整理・分析し、ビジネスやスポーツ、医学などさまざまな分野に活用できるよう価値を見いだしていくのがデータサイエンティスト。その第一人者として大阪ガスに勤める河本(かわもと)薫さん(53)が紹介されていた。実際に活躍しているデータサイエンティストを初めて目にし、がぜん興味が湧いた。
「僕がやりたいのはこれだ!と確信しました」(河口さん)
そこで受験校として急浮上したのが、2017年に日本で初めてデータサイエンス(以下DS)学部を創設した滋賀大だった。後日、入試の詳細を確認しようと改めてホームページを見て仰天した。なんと番組で見た大阪ガスの河本さんが、教授として同大に着任していたのだ。
「これは運命の巡り合わせに違いない」
そう感じた河口さんは、河本教授の著書を読み込んだ上でAO入試にチャレンジし、見事合格した。入学してすぐ、河本教授の研究室を訪ね、著書にサインしてもらった。
「学生にサインを頼まれたのは初めてだと先生も笑っていました。1年生から参加できる自主ゼミもあるので、すごく楽しみです」(河口さん)
いま、大学選びに異変が起きている。駿台教育研究所がまとめた「志願者が増えた大学ランキング」で今年、滋賀大が国公立大のトップに躍り出た。躍進に貢献したのは、前年比5割増と特に伸びが目立ったDS学部。
志願者増ランキングで私立大トップになった武蔵野大も今年、DS学部を創設。定員70人に対し志願者1767人と25倍超の高倍率となった。
現在、日本でDS学部があるのは、この2大学と横浜市立大(18年設置)のみ。横浜市立大学の志望倍率は今年で4倍超、昨年は7倍を超えた。