「遠い人は京都から『力になれれば』と撮影のモデルを買って出てくれました」

 撮影の最後は手を差し出すようなポーズをお願いしている。ある男性は、両手を差し出した。

「撮影時にメッセージもお願いしています。写真では笑顔でも、壮絶な過去があります。それでも生きている今を届けることで、誰かの勇気になればいいし、親から逃げ出すキッカケになればいい」(田中さん)

 少年院出院者を支援するNPO「セカンドチャンス!」の中村末子さん(43)は、ドキュメンタリー映画の制作に取り組む。女子少年院にカメラを入れ、6人の人生を追った。中村さん自身レディース(女性の暴走族)のリーダーで、16歳のときに女子少年院に入った経験がある。6人が心を許して語る人生に、中村さんは強い憤りを覚えた。

「もちろん、やったことは許されることではないですが、彼女たちは被害者でもあるんです」

 1人は、小学5年生の時に母親の恋人から性的虐待を受けていた。母親はそれを知り、
「そそのかしたお前が悪い」

 と、叱責した。義理の父からも虐待を受け、児童相談所に保護された。しかし、生活になじめず、児相を抜け出し、万引きしたところを捕まった。

「彼女は父親代わりの男性からの性的虐待も、みんなが通る道だと思っていました。子どもにとって親は絶対で、間違っているとは思わない。今苦しんでいる子どもたちに作品を通じて肉声を届け、今置かれている状況がおかしいと気づくキッカケになればうれしい」

 前出の今さんはこう話す。

「学校教育の持つ役割は大きい。例えば親やクラスメートに知らせないことを条件に『親への手紙』を書く行事などを設けてはどうか。子ども目線の対策が必要です」

 自らを発信し始めた被虐待者の活動は、現在の支援の在り方の限界を示している。(編集部・澤田晃宏)

AERA 2019年1月28日号より抜粋