「東京都の人口は25年にピークを迎えるが、京王沿線の自治体では25年を待たずに人口減少に転じると予測されているところもある。京王にとって京王ライナーの導入は、小田急との競争力強化といった意味合いが大きい」(同)

 各社が通勤ライナーに期待するのは、単に乗客数を増やすことだけではない。

 鉄道各社は鉄道事業以外に、沿線の都市開発や不動産事業、商業施設の運営なども手がけている。利便性を高めることで沿線に移住する人が増え、不動産の価値が上がれば、グループ全体の収益を押し上げられる。

 S-TRAINなどを走らせる西武鉄道は言う。

「近い将来、少子高齢化による通勤・通学需要の縮小が確実に訪れます。座席指定列車を運行することで、沿線にお住まいのお客さまの満足度を向上させること、住んでみたいとお客さまに選ばれる沿線になることを期待しております」

 不動産調査会社「トータルブレイン」(東京都港区)取締役専務執行役員の杉原禎之(よしゆき)さんはこう分析する。

「共働き世帯の増加により、いま住宅でもっとも重視されるのは利便性。通勤ライナーによって都心へのアクセスの利便性が増せば、沿線の不動産価値が高まる可能性がある」

 通勤ライナーが停車するような主要駅にはグループで手がける不動産や商業施設が集中している。鉄道各社にとって、利便性アップによる効果が見込みやすいとみられる。

 とは言え、人口減に加え、働き方改革が叫ばれるご時世。時間差通勤や在宅勤務が増えて混雑率が低くなると、通勤ライナーの存在意義が問われるかもしれない。松本さんは言う。

「近い将来、『通勤ライナー』に頼らずとも快適に通勤・通学できる時代が来ると思われる。着席できるだけでない付加サービスの模索も必要になる。車内での喫茶や食事も、新たな魅力になるのではないか」

 ゆったり座り、コーヒーとうまい食事を楽しみながらの通勤──。「痛勤列車」が死語となる日は来るだろうか。(編集部・野村昌二)

AERA 2018年12月24日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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