会社で求められるのは、とにもかくにも「イノベーション」。これまでの常識とは一線を画した斬新なビジネスを構築する発想力が必要で、そのために柔軟なアイデアをポンポンと出せる人材が生き残れる、というワケだ。その上、世は「働き方改革」の真っ盛り。上司からは「短時間で効率よく」「世界を変えるイノベーション」を実現する提案を求められるのだから、もはや「アウトプット地獄」に近い。

 タブさんは外資系コンサルに勤務する傍ら、週末に働く女性への個人コンサルティングを行う。その数7年でのべ600人。「新規事業を考えて」という上司からのむちゃぶりに悩む多くの女性が、タブさんのもとに駆け込んでくるという。

「女性は発想が柔軟なので奇想天外なアイデアが出やすい。その分、ヒットも生まれやすいのですが、答えを出そうと焦るあまり、その能力を発揮できない人が多い」(タブさん)

 例えば新規の商品開発をする場合、市場調査で顧客のニーズをつかもうとするが、それだけでは不十分。分析をした上で、「お客さんはどうやったら喜んでくれるのか」を店舗などで一日中観察しながら“シミュレーション(妄想)する”のがポイントだという。その際、アイデアが必要とされている背景を分析すると、相手や市場が求めているものが見えてくる。

 4年前、大手電機メーカーに勤務する女性(41)がアフリカで立ち上げる新規事業を考えていたとき、タブさんは「実際にアフリカで電話やネットをしているように妄想してみよう」と持ちかけてみた。

「『アフリカは暑いからスマホの画面が汗でぬれるかもしれないので、防水画面の仕様があると便利かも』など、さまざまな場面を妄想してもらいました。それを繰り返すうち、アフリカの人々への融資や支援金を誰かが使い込まないように、携帯電話の通信機能を使って、用途を制御できる『IT金融システム』があったら便利だろうというアイデアが浮かびました。それは実際に新規事業として企画が通ったと聞きました」(タブさん)

(ライター・村田くみ、編集部・作田裕史)

※AERA 2018年12月17日号より抜粋