稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。著書に『寂しい生活』『魂の退社』(いずれも東洋経済新報社)など。『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)も刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。著書に『寂しい生活』『魂の退社』(いずれも東洋経済新報社)など。『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)も刊行
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もうラウンジに入れる人が羨ましいとは思わなくなりそうです。そう考えるとナイスな体験だった!(写真:本人提供)
もうラウンジに入れる人が羨ましいとは思わなくなりそうです。そう考えるとナイスな体験だった!(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

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*  *  *

 さて先日のソウル講演旅行では、講演とは別に非常に楽しみにしていたことが。それは……飛行機のビジネスクラス搭乗! 招待頂いた先方の太っ腹にてこのような贅沢が許されたのです。イヤーこんな幸運これが最後かも。というわけで喜び勇んで航空券を予約したのでした。

 ところが。予約を終えてふと見れば、なんと搭乗時間は2時間ぽっち。イヤもちろん移動時間は短い方がいいんだが、せっかくなんだから10時間くらい乗っていたい~などと思う愚か者であります。とはいえもちろんそのようなわけにもいかずチッと舌打ち。揚げ句、そうだビジネスなら空港のラウンジが使えると思いつく。早めに行き、優雅に無料の朝食を楽しんでやろうじゃないのイッヒッヒッとほくそ笑む私でありました。

 ところが。いざ胸を張り「ワンランク上な自分」にうっとりしながらラウンジの受付を通過した途端、目に飛び込んできたのは朝食のビュッフェに我先にと群がる人々の群れ。もちろん私も負けじと割り込んでコーヒーやらパンやらヨーグルトやらを必死に分捕ります。ああ優雅どころか下品なことこの上なし! 一体これはどうしたことか。だってこの部屋にいるのは一定以上のお金や特権を持った人ばかりです。なのになぜこのような殺伐とした空間に? 「カネ返せ」とすら思うに至り、ハッとしたのであります。

 その理由はわが心にしっかり書いてありました。高いカネ払ってるんだからサービスされて当然というさもしい気持ち。それがあちこちで顔をのぞかせ下品さを振りまいているではありませんか。テーブルの上には食い散らかされた朝食の残骸やナプキンが必要以上に散乱し、係の人が硬い表情で必死に片付けています。あれまあと思いつつ、私だって「そのくらいやってよね」と心のどこかで考えている。安いビジネスホテルの朝食では自分の食べたものは普通に自分で片付けるのに。

 ああお金とは実に心の弱さを拡大させ、人を傷つけ空気すら悪くしてしまう。とすれば案外災いの元なのか?

AERA 2018年12月3日号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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