講師は全員「手弁当」 “教育版”子ども食堂が教育格差を救う 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

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講師は全員「手弁当」 “教育版”子ども食堂が教育格差を救う

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おおたとしまさAERA#教育
撮影/写真部・片山菜緒子

撮影/写真部・片山菜緒子

主要大学合格者数シェア(AERA 2018年9月24日号より)

主要大学合格者数シェア(AERA 2018年9月24日号より)

全国の主な高校進学塾(ZERA 2018年9月24日号より)

全国の主な高校進学塾(ZERA 2018年9月24日号より)

主要大学合格実績(AERA 2018年9月24日号より)

主要大学合格実績(AERA 2018年9月24日号より)

 塾と予備校は、もはや教育現場になくてはならない存在だ。幸福な出合いがあれば子どもたちの人生を豊かにするきっかけにもなる。学校教育を補完する「ハイブリッド教育」は先進国の中でも珍しい独自の進化を続けてきた。

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 かつては受験競争を煽る存在として非難された「塾」がいま、「ポスト偏差値教育」の新しい教育を実現しようとしている。塾や予備校の変化は、いつの時代も社会課題を映し出している。

「子どもの貧困」という喫緊の社会課題に立ち向かう塾も登場している。一般に「無料塾」と呼ばれるサービスだ。「子ども食堂」の教育版だと考えるとわかりやすい。

15歳を対象に実施される国際的な学習到達度調査PISAにおいて、日本は常に上位にランクされるが、文部科学省の全国学力・学習状況調査によれば、日本の中学3年生の半数以上が塾または家庭教師などの学校外教育サービスを利用している。経済的に余裕のある家庭の学力上位層の通塾率は7割以上になる。日本が世界に誇る、中学3年生時点での子どもたちの学力を、塾が引き上げている可能性は否めない。一方で、経済的な理由で塾に通えない子どもたちとの教育格差は広がり、それが後の人生に影響することになる。

その現実を目の当たりにしたことがきっかけで、大西桃子さん(38)は無料塾の「中野よもぎ塾」を始めた。

主に、塾に通う経済的な余裕のない中学生がやってくる。生徒の7割は母子家庭。生活保護を受けている家庭もある。学校の授業についていけず、心配した学校の先生が連れてきてくれたケースもある。

東京都中野区の施設の1室が「教室」で、教えるのは年齢層も職業もばらばらの「サポーター」たち。もちろん全員「手弁当」。毎回、25人の生徒に対して、それ以上の数のサポーターが集まり、マンツーマンで中学生の勉強を見る。

「私たちサポーターの役割は、勉強を教える以外の部分のほうが大きいかもしれないですね。相談に乗って、そこを整理してあげることで、ちゃんと勉強ができる状態をつくってあげることから始めなければなりません」(大西さん)

都道府県名やかけ算の九九すらおぼつかない生徒も少なくない。しかしサポーターも根気強い。一見簡単そうに見える問題に、子どもが何度もつまずいてやる気をなくしそうになっていても急かさず、ただ寄り添って励ます。

教室での授業は週1回だが、高校受験を控えているような生徒には、要望に沿って授業以外の日でも誰かしらがファミレスなどで個別指導を行う。2018年春の入試では、8人中6人が都立高校に、2人が私立高校に進学を決めることができた。

「塾というものに通うのが人生で初めてのことだったので、最初は怖かったですけれど、来てみたら『楽し~い!』っていう感じで、すぐに慣れました」(元生徒)

「この塾と生徒たちは本当に恵まれていると思います。これだけ多くの大人の善意に支えられているのですから」(大西さん)

 公教育システムに欠損が生じれば、塾や予備校をはじめとする民間教育システムが素早くそれを補完し、教育崩壊を防いでくれる。このバックアップ体制は世界でもまれに見るハイブリッドな教育システムだ。

「学校」という画一的な制度の中ではどうしても対応できない社会的課題がある。学校での勉強に興味を感じない子どもが塾で学びの楽しさに目覚めるケースもある。英語塾やプログラミング塾など、時代の最先端を行く教育は、塾から始まることも多い。

 塾・予備校は、もはや教育現場からなくすことはできない。子どもたちの未来を支える重要な社会インフラなのだ。(教育ジャーナリスト・おおたとしまさ)

AERA 2018年9月24日号より抜粋


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