深澤友紀記者(撮影/堀井真智子)
深澤友紀記者(撮影/堀井真智子)

「出産の痛みは生きて生まれてくるから受け入れられるものだ、と思った。赤ちゃんが死んでしまったのに、どうやってこの激痛に耐えればいいというのか……(中略)分娩室には、妊娠してから思い描いていた癒やしの音楽や映像も、アロマの香りもなかった。産声も聞こえない。静かで悲しい出産だった」(本文より)

 昨年、雑誌「AERA」で大きな反響を呼んだ連載「みんなの知らない出産」が本になった。タイトルは『産声のない天使たち』。死産や流産、NICU(新生児集中治療室)をテーマに、母親、父親、そして医療関係者など約50人に取材して書き上げたという。見えてきたのは、病院、家族、職場での理解不足に傷つく人や、逆に温かい心遣いに救われた当事者たちの姿、グリーフケアによって悲しみを抱えながらも前を向けた人たちがいる現実だ。企画立案から執筆までを担当した深澤友紀記者に話を聞いた。

――お腹の中で赤ちゃんが亡くなっていても陣痛を起こして産まなければならないなど、知らないことがたくさんありました。

 そういう人は多いと思います。不妊治療や流産についてはだいぶ社会の認知度も上がってきましたが、死産についてはまだまだ。厚生省令では、妊娠12週(4カ月)以後におなかの中で亡くなった赤ちゃんの出産を「死産」としていますが、陣痛の痛みに耐えて産声のない赤ちゃんを産んでも戸籍にすら載せてもらえません。こうした出産にまつわる悲しい話は当事者が家族や友人にも明かせずに苦しんでいることも多く、なかなか表に出てきづらいんです。社会の理解も進まず、心ない態度や悪意なく発せられた酷い言葉に辛い思いをする母親たちが多くいるのが現状です。

 今回の取材で特に残酷だと思ったのが医療現場です。ある女性は死産した我が子が「未滅菌」のシールが貼られたトレーに載せられているのを見て、「普通の」赤ちゃんだったらこんな扱われ方はしないだろうと絶句したそうです。「冷たいよね、かわいそうに」と。最新機器や至上のおもてなしを売りにした人気の産院クリニックでのことでした。別の病院でも、生後1時間で赤ちゃんを亡くした女性がその日の夕食に「お赤飯」を出されたケースもありました。子どもが亡くなってお通夜ともいえる日に。彼女は20年以上経った今も赤飯が食べられないままだそうです。産科は「おめでとう」の言葉があふれる場所です。でもそこで悲しんでいる人がいるということに、医療者の中でさえ想像力が働かない人がいるのが現状です。

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