冒頭の男性もその後、Kaienで就労移行支援を受けた。障害者枠の企業面接会では、担当者が会話に気を使ってくれたのか緊張しなかったという。無事、大手印刷会社に採用が決まった。

「自分の特性を把握してある程度自己管理できるようになり、会社の配慮を受けて働ける。今は、イラストレーターという夢もできました」

 発達障害の診断の有無にかかわらず、「コミュニケーションが苦手だ」と感じている学生のための支援もある。障害者雇用支援を手がける企業パーソルチャレンジが2年前に始めた「コミュニケーション・サポート・プログラム(CSP)」がそれだ。1日かけてグループ討論などを重ね、精神保健福祉士の若井彩美さんらとの個人面談でフィードバックを行う。

「ほかの人との協力が苦手だと思っていたけれど実はそうではなかった、と話す学生さんもいます」(若井さん)

 CSPでは発達障害学生向けの就活コースも用意。自己理解を深めてもらいながら、「障害者枠と一般枠の違い」を法律や人事制度、求人票の見方まで含めて指南し、一律ではない自分に合った働き方があることを伝える。

 講師の岡本純平さんは話す。

「発達障害は、個人の特性や濃淡が幅広い。配慮が必要だとしても、期待される能力とのバランスによって、職種を広げてくれる企業もあります」

 CSPを受講中の男子大学院生(24)は、小学3年時にアスペルガー症候群の診断を受けたが、学校生活に支障はなかった。挫折が訪れたのは、難関国立大学に入学し大学院に進んでからだ。

●大学で伸ばした専門性活かす 障害開示せず就活も

 研究室でプロジェクトを進めていく中で、周りのペースについていけず、やるべきことを進められない。周囲の学生たちと話すことさえ怖くなり、研究室にいられなくなった。学内の相談室に行って初めて「発達障害のためにつまずいている」と自覚したという。

 大学からCSPを紹介され、今は岡本さんらとフィードバックを重ねながら自己管理の工夫を実践している。

 障害者手帳は持っているが、就活は障害を開示しない「クローズ」で臨むつもりだ。今は障害による不安よりも、これまで頑張ってきた自分の能力を重視したいと思うようになったという。

 こうした就活支援を大学独自に行う動きも広がっている。

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