就労移行支援を受けていたときの男性のノート。自分の特性を整理し、対処法を身につける練習も重ねた。履歴書では「配慮いただきたい点」として、「まとめてではなく、一つずつ指示をしてほしい」などを挙げた(撮影/豊浦美紀)
就労移行支援を受けていたときの男性のノート。自分の特性を整理し、対処法を身につける練習も重ねた。履歴書では「配慮いただきたい点」として、「まとめてではなく、一つずつ指示をしてほしい」などを挙げた(撮影/豊浦美紀)
少人数でグループ討論を進めるコミュニケーション・サポート・プログラムの様子。講師の岡本純平さんが丁寧に解説する(撮影/豊浦美紀)
少人数でグループ討論を進めるコミュニケーション・サポート・プログラムの様子。講師の岡本純平さんが丁寧に解説する(撮影/豊浦美紀)
卒業後の進路状況[2015年卒業後](AERA 2018年4月16日号より)
卒業後の進路状況[2015年卒業後](AERA 2018年4月16日号より)

 発達障害を抱える学生は、この5年で約3倍になった。修学支援が整うなか、就活・就職後に初めてつまずくケースも少なくない。社会に出る前に特性を受容し、対処法を身につける。そんなきめ細かな就活支援が広がりつつある。

【図表で見る】卒業後の進路の実態

*  *  *

 たった1枚の履歴書に、丸1日。朝から書き始めて、徹夜しても仕上がらなかった。

 ボールペンで1文字ずつ、定規をあててそろえながら書く。本当は鉛筆で下書きするつもりだったが、母親は、

「何社分も必要なのに、それじゃあ間に合わないよ」

 などと言う。直接書き始めたものの、結局、1枚仕上げるのに用紙を10枚無駄にした。
 デザイン系専門学校を昨年卒業した男性(22)の話だ。就職活動には、スタートからつまずきを感じていた。

 苦労して完成させた履歴書を学校で先生に添削してもらうと「細かすぎる」。多数の間違いも指摘された。企業からの案内メールに気づかず返信しないという痛いミスもあった。

 それでも、なんとかたどりついた面接。専門用語が飛び交う中で、

「デザイナーって何だと思う?」

 と問われ、必死に考えて答えると、

「勘違いしているね」

 打ちのめされた気持ちだった。

「就活を通して自分の甘さを痛感したし、『健常者』の学生との差のようなものも感じて、落ち込みました」

 男性は、発達障害の診断を受けていた。小学校時代にまばたきが止まらないチック症状が続き、神経発達症の一つである「トゥレット症候群」と診断されたのが最初。「ことばの教室」に通っていたが、「遊具で遊びたくてじっとしていられず先生を困らせる」ことが多く、注意欠陥・多動性障害(ADHD)の可能性も指摘された。高校卒業前にはアスペルガー症候群とも診断された。興味・関心が偏ったり、社会性やコミュニケーション能力が欠如したりするとされている。

●幼少期からサポート受け、障害者枠で就職

 男性のように発達障害を抱える学生は近年、大幅に増えている。日本学生支援機構(JASSO)の調査によると、2011年時点で大学や短大、高等専門学校に在籍する発達障害の学生は1453人。全学生の0.04%だったが、16年には4150人と0.13%にまで増えている。5年で実に、2.9倍になった計算だ。

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