「強迫観念から来る精神的不安定さは、職務不能と裏表。職務不能を理由に副大統領が大統領代理として権限と職務を遂行する合衆国憲法修正25条にかかわってくる問題だ。精神状態が悪化すればするほど、25条という選択肢は現実味を帯びる。同時に、ロシア疑惑の捜査が長引けば長引くほど、トランプ氏の精神状態の不安定さは、ますます増していく」

 米国憲法は、ケネディ大統領暗殺後の修正25条で、大統領が職務を執行できない場合は副大統領を大統領職務代行とすることができると定めている。

 米メディアもトランプ氏の精神状態について報道を過熱させている。ウルフ氏も暴露本を出版した理由の一つに、トランプ氏の精神状態への危機感を強調しており、「トランプ周辺の100%が精神状態を懸念している」とまで発言。11月に中間選挙を控える民主党議員たちも、これを追い風と追及してくるとみられる。

 精神状態を指摘されたトランプ氏はツイッターで自身について「賢いというより天才に値する。安定した天才だ」などと反論。海野教授によると、こうした言動こそが不安定さを証明していると話す。北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長に対し、「私の核のボタンは、もっと大きく強力で機能する」と書いたツイッターも同じだ。「北朝鮮情勢の行方がトランプ氏の精神状態と関係することがあってはならない」と海野教授は危惧する。

 政権与党の共和党はどう対応するのか。党内情勢に詳しい前出の中林教授は、「危機感はあるが、大統領を代えるより、うまく使いながら自分たちの政策を進めていくことに焦点を置いていると思う」。修正25条を検討するまでにはなっていないし、政権運営も周辺が大統領をうまくコントロールできる範囲内に、まだあると見ている。

「ただ、それも全てはロシア疑惑の捜査状況と、発表のタイミング次第。中間選挙が近づくほど、極端な判断をする議員も出てくるかもしれない」

(編集部・山本大輔)

AERA 2018年1月22日号より抜粋

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