「昔の史料を見ると、お母さんがかまどの火をおこす火吹き竹を振り回して子どもを怒ったりしていた。それが近代以降『母親=温かい』という幻想にすりかわり、母親たちを追いつめてきたのです」

 そのころの慈母幻想にとらわれた世代の子ども世代が、いま母親になっている。「子育てはすばらしい」というイメージを刷り込まれ、みんなの前では明るく優しくふるまわなければいけないけれど、実際には子どもは聞き分けはないし配偶者も非協力的だし……と負の感情がどんどん積み重なっていく。今後はそういう感情の抑圧を感じる男性も増えていくだろう。

「仲良くすることはいいことと言われ、感情をあまり出さないように育ってきたのも今の世代。それが聞き分けのない子どもと厳しい子育ての現実に直面して初めて、こんなはずではなかったという感情をあふれさせることに。『私、こんな声が出せるんだ』と感じた方もいるといいます」

 そんな感情の爆発は、いわば親の「人間宣言」なんだと大日向氏は強調する。

「一気に爆発するより、少しずつ爆発したほうがいい。泣いてもいいと思います。泣くことは自分を癒やす作業。自分はこれだけ大変なんだと、配偶者や子どもに伝えることもできる」

 思春期の子どもとの向き合い方に困ることもあるが、「反抗する子に対して『もう一人前なんだから』と背中を向けてはいけない。むしろ、子どもが怒鳴ってきたら時には怒鳴り返すのも自然ではないか」と大日向氏は語る。

「ネガティブな感情だけではなく、ありがとう、うれしいといったポジティブな感情も含めて、もっと豊かに出したほうがいいと思います」(大日向氏)

(編集部・取材班)

AERA 2017年9月11日号