●水戸岡さんの理想列車

 6両編成のうち先頭の1両の床を木製にしたのも特徴だ。一般的なプラスチック製の床に比べ、維持管理の手間がかかるが、やわらかい木の質感には温かみがある。

「白い列車で床を木製にすれば、維持が大変です。でもそのほうが九州の風土や風景に溶け込み、乗客にもずっと喜んでもらえる。ファストフード文化が全盛だからこそ、公共交通のなかには、そうではないものを盛り込みたかった」(水戸岡さん)

 高効率のモーターも搭載し、国鉄時代から同区間を走る車両に比べ、消費電力は半分になった。また昨年10月からJR九州は蓄電池を積んで非電化区間も走れる新型電車「DENCHA(デンチャ)」を導入。この電車のデザインも水戸岡さんだ。白を基調に地球をイメージした青色を用いた。

 今年70歳を迎えるが、創作意欲はなお盛ん。脳裏にあるのは、車両の床すべてにふんだんに木材を使う、木の香りがわきたつような通勤列車だ。

 JR九州は昨年10月に株式上場を果たした。株主の期待にこたえようと、不動産事業への傾斜を強めていく一方、鉄道事業のコストカットを急ピッチで進める。「水戸岡さんの後見人」(JR九州幹部)と見られてきた唐池氏は、会長職に退いた。

 鉄道カメラマンの南正時さん(70)も、「JR九州の電車は昔のほうが魅力的。最近はデザインの奇抜化や合理化が進んでいて」と語る。

 思い描く「理想の通勤列車」はこの先、どんな形で実現するのか。鉄道ファンならずとも気になるところだ。

(朝日新聞記者・岩田智博、土屋亮、角田要)

AERA 2017年4月10日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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