水戸岡鋭治(みとおか・えいじ)/工業デザイナー。「ファストフード文化全盛だからこそ、公共交通の中にそうではないものを盛り込みたかった」 (c)朝日新聞社
水戸岡鋭治(みとおか・えいじ)/工業デザイナー。「ファストフード文化全盛だからこそ、公共交通の中にそうではないものを盛り込みたかった」 (c)朝日新聞社

 国鉄が解体し、7社のJRが発足して30年。株式上場を機に、脱テツドウにシフトする会社があれば、お先真っ暗な未来にアタマを抱える会社あり。現在のリストラなど働く人たちの労働環境悪化は、国鉄解体に原点があるとの指摘も。「電車の進化」などさまざまな切り口で30年を検証していく。AERA4月10日号では「国鉄とJR」を大特集。今回は、JR九州の個性豊かな電車の生みの親でもある、工業デザイナーの水戸岡鋭治さんに、電車のデザインで大切にしていることを伺った。

*  *  *

 個性的な電車で名をはせているJR九州。九州を一周する豪華寝台列車「ななつ星」や観光列車「SL人吉」、大分県の人気観光地を走る「ゆふいんの森」など、個性豊かな観光列車が全国的な知名度を得ている。

 その生みの親は岡山県出身の工業デザイナー・水戸岡鋭治さん(69)だ。30年前のJR九州発足からほどなく、初代の石井幸孝社長に列車のデザインを一手に任され、以来、JR九州の観光列車は「水戸岡デザインの代表作品」と評され、注目を集めてきた。

 テレビや雑誌などでJR九州の豪華列車、観光列車は繰り返し取り上げられてきたが、

「九州の人が毎日使う通勤列車にこそ、私のデザインの哲学は凝縮されている」

 4代目社長を務めた唐池恒二会長(64)にかつて、かけられた言葉をいまも忘れていない。

「水戸岡さん、最も大事なのは通勤列車です。毎日当社を使ってくれる大事なお客さんを乗せているんですから」

 その集大成が15年2月にデビューした福岡空港と西唐津(佐賀県)間を結ぶ新型通勤電車305系だった。JR筑肥線から福岡市営地下鉄に乗り入れ、通勤客が多いエリアを走る。通勤電車としては15年ぶりに導入された新型車両だ。

 外観は、透明感の高い白色を採用した。その分、掃除をこまめにしないと、汚れが目立つ。手入れしやすいステンレス製の通勤列車が幅をきかせる中、異例の選択だった。

著者プロフィールを見る
野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

野村昌二の記事一覧はこちら
次のページ