同じキャンプで暮らす男性(50)には、5歳から15歳まで4男4女の8人の子どもがいる。彼は言う。

「子どもは誰も学校に行っていない。小学校に通わせたいと思い、近くにあるレバノンの公立小学校にかけあったが、認められなかった。シリアでは学校に通っていた子どもも、家にいるだけだ」

 シリアではタクシー運転手をしていたが、心臓病の持病もあり、レバノンでは失業中。シリア難民はレバノンの滞在ビザを取得するのに、毎年200ドル払わねばならないが、3年前からそれが払えず、不法滞在となっている。

「仕事がないから払えない。滞在ビザを持っていないので、キャンプの外に出るとレバノン軍の検問で止められ、拘束されるかもしれない。外出できないために、仕事を見つけることもできない」

 と、悪循環を語る。

 キャンプの入り口に子どもたちが集まっていた。シリアでは幼稚園や小学校に通っていたという子どもも多いが、レバノンでの5年間は、自宅で親たちに教わるだけという。

 キャンプの一角の倉庫では難民を支援する組織「シリアの目」のスタッフが、壁を塗り、机や黒板を入れるなど改装作業をしていた。難民の子ども向けの「教育センター」をつくる準備だという。

「正式な学校ではないが、学校に行けない子どもに、絵を描かせたり、本の読み聞かせをしたりしながら、基本的な読み書きを教える予定だ」(スタッフの一人)

●バランスの変化を警戒

 シリア内戦では480万人の難民が周辺地域に出て、うち150万人がレバノンに住む。レバノンの人口は465万人で、国民1人当たりが抱える難民の割合は世界最高となっている。

 ただし、トルコやヨルダンのように大規模な難民キャンプがないため、レバノンのシリア難民問題はその深刻さが見えにくい。レバノン政府は、国内で公式の難民キャンプをつくることを認めていないのだという。

 さらにレバノン政府は15年5月にUNHCRの難民登録が110万人になった時点で、難民登録をやめさせた。その後、無登録の難民が40万人以上、入国したと推測されている。

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