さて、ここまで、食欲やダイエットと脳の働きを見てきたが、もうひとつ、私たちの食行動を支配しているのが「味覚」ではないだろうか。

 味覚には、敏感な人と鈍感な人がいる。

「暑いところにいれば暑さに慣れるし、寒いところにいると寒さに慣れる。味覚も感覚器官ですから、甘いものばかり食べればそれに慣れて甘すぎるものが普通になってしまいます」

 そう話すのは、『味覚を変えればやせられる』などの著書がある森拓郎さん。健康的に理想の体を作るための食事指導をしてきた。

●味覚の正常化も大事

 本来、食事の内容は栄養素を基準にして選択するのが理想的だ。だが、栄養素でなく、おいしさを基準に選んでいる人が圧倒的に多いと森さんは見ている。

「食行動のきっかけが味覚になってしまっている人は多いです。あの味が欲しいから、と無自覚に選んでいる状態です」

 味覚が狂えば、嗜好(しこう)も偏り、肥満につながる。味覚刺激だけを求めると、加工食品や化学調味料が使われた食品を手に取りがちだ。中毒性が高く、刺激が強いジャンクフードなどは、往々にしてカロリーは過多なのに、栄養分は不足している。

 太っている人の多くが実は栄養不足の状態にあるという。食事で栄養素が十分にとれていないから、間食や夜食が食べたくなる。そして間食でまた、栄養がスカスカで、カロリーだけ高い食品を選ぶ……という悪循環が続いているのだ。

 では、味覚を正常化させるためにどうしたらいいのか。まずは、基本中の基本として、原材料のラベルを確認するところから始めたい。インスタント食品や加工食品など、いったい自分が何を食べているのか、わかっていないこともある。

 そして人工甘味料や化学調味料などの食品添加物は避け、味覚刺激に頼らないようにする。自炊する場合も、外食のような濃い味付けになっている可能性があるので、調味料の選び方に注意する。「みりん風」や「醤油風」の化学調味料は要注意だ。

 舌にある味蕾(みらい)細胞は、ターンオーバー(細胞の入れ替わり)が体の中でいちばん早く、10日ぐらいで入れ替わるという。ただし、食行動の改善にはやはり最低でも2、3カ月かかる。段階を踏んで無理なく行いたい。

「食べ方のクセを変えないうちは、結局はリバウンドを繰り返してしまう。味覚が整えば、自然と嗜好が変わる。正しい食事が習慣化されて、何より太らない食べ方が身につくんです」(森さん)

(編集部・高橋有紀)

AERA 2016年12月26日号