少し食べても満足したり、たくさん食べても満足感は得られなかったり。そのカギは脳にある(撮影/写真部・堀内慶太郎)
少し食べても満足したり、たくさん食べても満足感は得られなかったり。そのカギは脳にある(撮影/写真部・堀内慶太郎)

 今日も元気だ、ビールがうまい。だけど気になる腹の肉。「◯◯さんがやせたって」。職場の噂が気にかかる。去年も言った気がするが、正月前に今年も言おう。「来年こそ、やせる!」(きっぱり)。「あなたの肥満はアレルギー?」「満腹中枢を手なずけろ!」「ブル中野さんが60キロやせたワケ」――本気でやせるコツを、AERAが真面目に大特集。

 おなかいっぱい。でもケーキは別腹、ではない。実は「空腹」と「食べたい」は脳内の別の仕組みで起こる。食欲を手なずけて、食べすぎを防ぐ方法はないのか。

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 チョコ、せんべい、チョコ、せんべい。さっき夕飯を食べたはずなのに。甘いものと塩辛いものの無限ループを、このまま一生続けられるような気がして、ふと思いいたる。私の満腹中枢が狂っているんではないだろうか、と。ダイエット経験者なら、誰でも覚えがあるだろう。

 自分の中にあるはずなのに、まったく言うことを聞いてくれない「満腹中枢」。いったい、何者なのか。脳の専門家に聞くべく、筑波大学教授で同大国際統合睡眠医科学研究機構副機構長の櫻井武さんのもとを訪ねた。

 先生、満腹中枢をどうにか手なずけることはできないんでしょうか。

「まあ、無理でしょうねえ」

 のっけから、期待は打ち砕かれた。

「そもそも、満腹をつかさどる中枢のようなものがあるという考え方が、かなり古典的。実際には、脳のさまざまな領域が複雑に連携を取り合って食欲をコントロールしています」

 摂食中枢が働くと空腹を感じ、満腹中枢が働くと満腹を感じる。これは昔の生理学者がラットの脳のさまざまな部分を壊してその結果を調べる破壊実験をして、明らかにしたもの。視床下部のある箇所を壊すと満腹を感じなくなって太ることから、その箇所を満腹中枢と呼んだわけだが、実際にはここだけが重要なのではない。

●体重調整は脳機能に

 気を取り直して、脳が食欲を生み出すシステムを見ていくことにしたい。自分の体の中で何が起こっているのか。仕組みを知らずに食欲に翻弄(ほんろう)されるより、知って翻弄されるほうがまだ納得がいくというものだ。

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