●19年目で手取り16万円

 保育士資格を持ちながら保育士として勤務していない「潜在保育士」は国の推計で70万人以上いるという。厚生労働省が13年に実施した「保育士資格を有しながら保育士としての就職を希望しない求職者に対する意識調査」では、その理由として、半数近い人が「賃金が希望と合わない」と回答。「他職種への興味」「責任の重さ・事故への不安」が4割を超えた。責任や業務の負担は大きいのに、賃金が安すぎるという不満が浮かび上がってくる。

 厚労省の15年賃金構造基本統計調査によると、民間保育士の平均賃金は月額約21万3千円。全業種の平均(30万4千円)より約9万円低い。

 これだけ売り手市場の保育業界なのに、保育士の賃金が増えない理由は、認可保育園の保育士の賃金が、政府の決める公定価格に左右されるからだ。保育所の運営費は国や自治体が支出する保育所運営費や補助金でまかなわれ、保育士の数も決められている。

「国が決めた基準があるので、賃金を上げることもできず、保育士の数も現場の実態を反映していないため、低賃金で過重労働になってしまう。深刻な保育士不足は国の政策の結果です」

 こう指摘するのは全国福祉保育労働組合(福祉保育労)の小山道雄・副中央執行委員長だ。

 福祉保育労に寄せられた「保育現場の声」には、自身の給与明細を添付する人もいた。例えば昨年11月分給与は、17年目の保育士で手取りが17万2862円だったり、19年目で16万6554円だったり。手取りが14万円余りの4年目の男性保育士は吐露する。

結婚はできたとしても、暮らしていけるか考えるだけで頭が痛くなります」

 川崎市にあるすこやか諏訪保育園の奥村尚三園長(55)もこう言う。

「大切な命を預かっているという責任と、子どもたちの心身の発達を支援する仕事の内容や量を考えると、現在の給与は見合っていない」

 奥村園長によると、保育士たちは専門的知識を生かして子どもたちそれぞれの発達を支援する。遊びも指導計画に基づいていて、例えばお散歩一つにも狙いや目標があるという。さらに園児の様子から家庭の状況を察知し、子育てで孤立したり、精神的に不安定になったりしている保護者への支援も担うなど、難しい業務を行っている。

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