東京の郊外にある認可保育園で働いていた女性(34)は、2歳児クラスの担任をしていたとき、ある女の子の母親に悩まされた。

●「服汚した」と親が苦情

 その母親は有名大学病院に勤める40代の看護師で、子どもにブランドものの服を着せて登園させていた。絵の具や泥んこ遊びの日は事前に知らせているのに、母親は「どうしてラルフローレンの服を汚したのか」と弁償を求めてきた。園長が「面倒だから」と言いなりになって弁償すると、苦情はエスカレート。母親は気に食わないことがあると連絡帳1ページにぎっしり文句を書いてくるので、女性は毎朝その子の連絡帳を開くのが怖くなり、退職を決意した。その後、民間の学童保育などで働いたが、現在は専業主婦。保育士に復職する気はないという。

 その女性が現場に戻らない理由は他にもある。事故への恐怖だ。一時保育の担当をしていたときに、床に置いた給食のスープ缶に0歳児が手を突っ込んでやけどを負ったことがある。給食の準備に追われていた中での自分のミスだった。肌は数カ月後にきれいに治ったが、いつケガをさせてしまうかとビクビクするようになった。

 都心の繁華街の雑居ビル2階にある無認可の24時間託児所で6年間働いていた男性保育士(34)も「何かあったらどうしようと常に神経をすり減らしていた」と振り返る。

 園長のほか2人の保育士で15人の子どもをみていて、男性が一人で異年齢の園児8人を近くの公園へ連れていき遊ばせていた。高熱の子どもに解熱剤を飲ませて預けていく母親もいて、途中具合が悪くなった園児を、連絡の取れない母親に代わって小児科へ連れていったことも。心身への負担は大きいのに時給はわずか900円だった。

 前出の脇さんは警告する。

「保育園はリスクが過度に集中する場所です。でも園側も保護者側も危機意識が薄い」

●名刺持ち「認められた」

 例えば園での様子を保護者に伝える連絡帳。お昼寝中に書く保育士は多いが、実は昼寝時間は危険な時間帯。内閣府の発表によると、15年の保育施設での死亡事故は14件で、うち10件が睡眠中に起きた。脇さんは言う。

「死亡事故が起きる可能性が最も高いお昼寝の時間帯に連絡帳を書くなんて論外です。『ながら仕事』で注意力が散漫になり、保育士が連絡帳を書いている数十センチ先で子どもが亡くなる事故が繰り返されています」

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