共働きで世帯年収は2千万円近くあるが、安心感はまったくない。

「これまでは学歴による年収の差が明らかだったから、大卒資格のために教育投資をしてもリターンが期待できた。でも娘たちが働く頃には、投資に見合う収入が得られるのでしょうか」

 最近はグローバル教育や留学など、より良い教育環境を海外に求める動きも加速する。将来、何百万円程度の学費が必要になるのか。「出せなくはないはず」と思うしかない。

●奨学金は貸与型中心

 そもそも日本は、教育に対する公的支出が先進国で最低水準だ。経済開発協力機構(OECD)の調査によると、12年の国内総生産(GDP)に占める教育機関への公的支出の割合は、日本は3.5%で、34カ国のうち最下位だった。

 教育格差をなくすため、教育困難校などに人材を紹介しているNPO法人ティーチ・フォー・ジャパンの松田悠介代表理事は、こう分析する。

「日本は公的支出が少なくても、進学率や識字率が高く、学力は世界に誇れる。実はそれは『塾文化』に代表される私費負担による成果が大きいのですが、“費用対効果”が高いように見えてしまうため、教育政策として公的支出を増やす意義がわかりづらくなっているのです」

 OECDの11年の調査では、教育機関への私費負担の割合は平均16%に対し、日本は30%で、そのうえ塾代も加わる。高等教育(大学)では66%が私費負担だ。大学の授業料は先進国でも高いほうだが、他国とは対照的に奨学金制度が充実していないことも指摘されている。国は給付型の奨学金を創設しておらず、機構の奨学金は返済が必要な貸与型で、有利子が多い。12年度末の延滞者は33万人で、機構は債権回収業者による督促や信用情報機関への登録などで回収を強化。返還訴訟にまで発展したケースは12年度で6193件と、04年度の100倍を超えた。

●卒業時負債500万円

 私立理系の大学から国立の大学院に進んだ会社員女性(26)は、大学2年のときに自営業の両親からの仕送りが途絶えた。年の近い兄がおり、それぞれ一人暮らしをして通学していた。

「もう限界」

 と音を上げた両親に、月7万円の家賃だけは何とか払ってもらい、週5日6時間ずつ、まかない付きのレストランでアルバイト。週1日は事務のバイトもして生活費を稼いだ。無利子の奨学金に加え、企業による給付型の奨学金も受給できた。大学院生になると授業料免除も受けられたが、バイトどころではなくなり、1万円を超える専門書はあきらめた。

 返済が必要な奨学金は、約500万円。返済年数は30年間だ。

「毎月、粛々と返しています」

 大学を卒業しても、まずは自分の教育費を精算しなければならず、次世代に教育費をかけるどころか、育てられない、産めない、ともなりかねない。1億総活躍の前に、「1億総教育費破産」をどう食い止めるのか。

AERA 2016年1月18日号