スプリングバレーブルワリーではビールにホップやハーブを追加し、自分好みの味にアレンジして飲むこともできる(撮影/写真部・大嶋千尋)
スプリングバレーブルワリーではビールにホップやハーブを追加し、自分好みの味にアレンジして飲むこともできる(撮影/写真部・大嶋千尋)
スプリングバレーブルワリー東京で飲める6種類のビールと、それぞれの味に合わせたおつまみのセット。色も味も香りも違うビールを一度に味わえるため、初めて来店した人の多くが注文するという。自分が好きなビールがどれかで話も盛り上がる。秋にはオンラインショップ「DRINX」で6種類全て購入可能に(撮影/写真部・大嶋千尋)
スプリングバレーブルワリー東京で飲める6種類のビールと、それぞれの味に合わせたおつまみのセット。色も味も香りも違うビールを一度に味わえるため、初めて来店した人の多くが注文するという。自分が好きなビールがどれかで話も盛り上がる。秋にはオンラインショップ「DRINX」で6種類全て購入可能に(撮影/写真部・大嶋千尋)
和田さんは「氷結」などのキリンの商品開発に携わってきたヒットメーカー。スプリングバレーブルワリーの開店まで3年以上かけた(撮影/写真部・大嶋千尋)
和田さんは「氷結」などのキリンの商品開発に携わってきたヒットメーカー。スプリングバレーブルワリーの開店まで3年以上かけた(撮影/写真部・大嶋千尋)

 今、クラフトビールの世界にはまる人が続出中だ。はっきりした定義はないが、小規模な醸造所で職人が丹精込めてつくる少量生産のビールを指すことが多い。全国的に購入できる従来品とは違い、つくり手の個性を楽しむビールともいえる。

「ビールは味わい豊かで奥深い飲み物なんです。その楽しさを多くの方に知ってもらいたい」と熱く語るのは、東京・代官山と横浜に醸造所併設レストラン「スプリングバレーブルワリー」を開いたスプリングバレーブルワリー社長の和田徹さん(54)だ。

 ここはじつはキリンビールのグループ企業。オープン時には「あのキリンがクラフトビールに参入した」と話題になった。

「確かに背景には、若い世代のビール離れも影響しています。ジョッキに枝豆という古いイメージが定着してしまったこと、価格や安定供給を追求したことで嗜好(しこう)品としての魅力が伝わりにくくなってしまった。その固定観念を崩したいという狙いはあります」

 何よりも、和田さん自身とキリンという企業を支える「ビール愛」をこれまでと違う形で伝えたいと言う。その思いの具現化の一つがレストラン内の醸造所だ。毎日、店内ではキリンの技術を生かしたこだわりのビールを新鮮なうちに飲むことができる。規模は違うが醸造過程は工場でつくられるビールとほぼ同じ。従来品も元をたどればクラフトビールと同じく職人の腕から生まれていることに気づかされる。

「ビールはクリエーティブな飲み物。醸造に時間がかかるワインや日本酒に比べ、年間何度でもつくることができます。原料や醸造を工夫することで味や香りが大きく変わる。そんなビールの幅広い表現をメーカーとお客様という立場を超え、一緒に味わい、語り合いたいのです」

 スプリングバレーブルワリー東京は特に今、予約が取りにくいほど盛況だ。全国各地でクラフトビールをつくるマイクロブルワリーの人々も訪れる。醸造の過程を見ながら、ビールの味比べをしながら、ビールと料理のマッチングに酔いしれながら、人々の話題は尽きることがない。和田さんもできる限り足を運び、多くの人とビール談議を楽しんでいるという。

AERA  2015年6月29日号より抜粋