●寝息を聞いたら仕事

 一般に外資系は女性が働きやすい、といわれるが、女性はため息まじりに言う。

「両立支援のメニューの多くは対外アピール用。実際には使わせないトリックがあるんです」

 例えば「育休は子どもが2歳になるまで取得可能」「時短は子どもが小学4年生になるまでOK」のはずが、時短については「育休と合算して最大4年まで」というただし書きがある。「小1の壁」を考慮して小学校入学以降に時短を取ろうとすると、育休2年は絵に描いた。それだけ休めば、保育園の間はフルタイム勤務しかない。子どもが小さいうちは深夜残業を免除してもらえると聞いて同僚が申請に行くと、「制度はありますが申請書はありません」。

 結局、「両立」は個人に忍耐を強いるのか。いつもぎりぎりタクシーで子どもを迎えに行き、作り置きしておいたおかずを温め、お風呂に入れる。子どもの寝息を確認するとすぐに仕事を再開。気づくと朝4時だ。2人目を産んで復帰する道を思い描くことはできなかった。

 ワーキングマザーたちはこうして、経験やスキルを持ちながら、「両立」の狭き道から振り落とされる。

 昨年、そんな彼女たちに専門性を生かせる仕事を紹介する人材会社が誕生した。Warisだ。前出の外資系企業を辞めた女性は最近、Waris経由で仕事を受注。「ちょうどよい働き方」の模索を始めている。

 鉄道会社の総合職だった田中順子さん(35)は、退職して専業主婦になったことで新たな世界に出合った。初めて付き合う幼稚園ママたちが、田中さんの専業主婦のイメージを変えた。

●理不尽な両立はノー

 腰かけで寿退社が一般的だった母親世代の専業主婦と違い、いまは多彩なキャリアや資格を持つ人が多い。地域にこんな才能を眠らせておくなんてもったいない。そう感じていた矢先、「子どものいる暮らしの中で『はたらく』を考える」という講座に出合った。主催は非営利型株式会社ポラリス。企業の中で両立を目指そうとすると、仕事か子どもか、優先順位をつけざるを得なかった。ポラリスは、両方を大事にするために、雇われるのではなく自分たちで地域に仕事をつくり出していく活動をしている。共感した田中さんは、活動に加わった。

 企業や行政に働きかけ、庶務やマーケティング、リサーチなどの仕事をつくり出す。作業はチームでシェア。働く場としてコワーキングスペースも作った。社会や企業から押しつけられる理不尽な「両立」は、もういらない。

AERA  2014年10月6日号