「自由」を尊重しつつ、知らず知らずのうちに価値観を押しつける親が増えている。誰でも「毒親」になる可能性がある。
中学3年生の長女を持つ40代のパート女性は最近、長女が通う塾の講師からかけられた言葉に冷や汗が出た。
「受験する高校は本人に決めさせてくださいと伝えましたよね? お子さん、偏差値65以上じゃなければママは許してくれないと泣いていましたよ」
日頃から「何でも自分で決めなさい」と言ってきたが、娘が第1志望として高校名を挙げた際、「偏差値が低すぎる」とつい本音がポロリ。
「欲のない娘にイラついていたのは事実。伝わっちゃうんだと驚きました」
自分で決めろと言いながら、本人の意見にはダメ出しをする。相反する指示命令が下されることによって、受ける側はどちらを信じたらいいのかわからなくなった末に、考えることをやめてしまう――。このようにして自己判断力が失われるプロセスを「ダブルバインド(二重拘束)」と呼ぶ。28年間小学校で教えた経験を持つ、白梅学園大学子ども学部教授の増田修治さんは言う。
「今の子は、空気の読めないKYなヤツと思われたくない気持ちが強いため、ヒドゥン(隠された)メッセージの影響を色濃く受ける。ダブルバインド親に育てられた子どもは、親に反抗できず、自分の気持ちや意思がわからなくなる傾向がある」
日頃繰り返される会話の中で、親の価値観をすり込み、暗黙のうちに高学歴や高経歴の人生を強要する。ダブルバインド親は「教育毒親」の典型だ。
ダブルバインド親は、自分では「子どもの自由を尊重しているつもり」だから、状況が深刻化することもある。
※AERA 2014年9月15日号より抜粋