「いのち」をテーマに筑紫哲也さん(右)と対談した高橋さん(高橋さんの公式サイトから)
「いのち」をテーマに筑紫哲也さん(右)と対談した高橋さん(高橋さんの公式サイトから)

■死へのプロセス 快く過ごすには

 10月から半年間くらいチェンマイに滞在する計画を立て、住む家も決めていったん帰国した。だが、9月の定期検診で腫瘍マーカーが上昇していたため、高性能診断装置PET‐CTを受けた。その結果、がんが腹膜に転移し、あちこちに散らばる「腹膜播種」の状態だった。

「ステージ4ですが、担当医の先生は『根治を目指す』と言ってくださり、僕もその意欲を持たなければと思いました。いまこそ、僕がかつて末期がん患者さんたちと向き合う中で行ってきたこと、語ってきたことが正しかったのかどうか、身をもって判定できます」

 もう一つ、高橋さんが闘病生活でテーマにしていることがある。

「死までのプロセスを、いかに快く過ごしていくか、ということ。この実践がいままでの人生総決算のネタになると考えています。尊厳を保持した死を求めるなら、不快を快に転換する方法を考える必要があります」

 10月に行った手術では4カ所の転移巣を切除し、11月末から全身治療として抗がん剤を投与することになった。諏訪中央病院への通院が必要になるため、京都から松本に戻ることを決意。手術前に物件を決め、退院後、抗がん剤治療が始まるまでに引っ越すという強行スケジュールを敢行した。

「メチャクチャ大変でしたが、これも快さの追求の一つです。68年間住んだ故郷に戻り、子どもや孫たちも近くに住んでいる。家からは北アルプスの常念岳も見えます。これらは何よりも快く強力な抗がん剤です。死へのプロセスにある不快を少しでも快に転換することは、QOL(生活の質)の獲得につながる。その結果、豊かで穏やかな死への着地がかなうかもしれない。そんな『快い死への道のり』を探す実践を、自分自身のがん治療の中で試してみたい」

 生命を賭した挑戦は、これからも続く。(本誌・亀井洋志)

週刊朝日  2023年5月19日号