さて、69歳以下の場合はどうでしょう。この年齢で、老化と死をすべて受け入れるのは、少し早いように思います。死をもたらすかもしれないがんと積極的に闘ってみるという選択肢があります。一擲乾坤(いってきけんこん)を賭(と)すという気持ちになっていいのではないでしょうか。

 そのときは「時間は未来に向かって開かれている」ということを前提に神谷美恵子さんが語った次の言葉をよく噛み締めてからスタートするのがいいと思います。

「ほんとうに生きている、という感じをもつためには、生の流れはあまりになめらかであるよりはそこに多少の抵抗感が必要であった。したがって生きるのに努力を要する時間、生きるのが苦しい時間のほうがかえって生存充実感を強めることが少なくない」(『生きがいについて』みすず書房)

 がん治療の苦しさのなかにあっても、いのちのエネルギーを高めていくことが大事です。

 三つ目の年齢、70歳から79歳の場合はどうでしょう。この年代は難しいです。80歳以上と同様か、69歳以下と同様か、その人の死生観によって違って一概には言えません。それぞれが、二つの道をよく吟味して選んで欲しいです。

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

週刊朝日  2022年7月1日号

著者プロフィールを見る
帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

帯津良一の記事一覧はこちら