※写真はイメージです
※写真はイメージです

 欧米で開発された新薬が日本になかなか届かない、「ドラッグラグ」(新薬承認の遅れ)を心配する声が上がっている。欧米との格差が広がれば、患者の負担が増えたり、最先端の治療が受けられなくなったりする恐れがある。

【表1】現在開発中の国内未承認薬がこちら

「ドラッグラグの兆しがある」

 今年1月、大手製薬会社などからなる日本製薬工業協会(製薬協)のトップ、岡田安史会長(エーザイ最高執行責任者)の発言が波紋を呼んだ。

週刊朝日 2022年7月1日号より
週刊朝日 2022年7月1日号より

 ドラッグラグとは、日本での新薬の投入が欧米に比べて遅れる状況を指す。同協会のシンクタンク、医薬産業政策研究所によると、過去5年間に欧米で承認された新薬のうち、国内で未承認のものは2020年時点で176品目。欧米で認められた新薬の72%が、国内で実用化されていない。この割合は16年の56%から増えている。

 同研究所がさらに国内の未承認薬を調べると、より深刻な状況が浮かび上がった。10~20年の国内の未承認薬265品目のうち、国内で開発を中止、中断したものは33品目(13%)、国内での開発情報がないものも149品目(56%)あった。約7割が、国内では開発に動きがない。

 265品目のうち、一番多かったのは抗がん剤で、抗感染症薬などが続いた。

「ドラッグラグというよりも『ドラッグロス』と言ったほうがいいかもしれません」

 こう危機感を強めるのは、国立がん研究センター中央病院の副院長で先端医療科長を務める山本昇さんだ。山本さんは、日本市場に入ってきさえしない新薬が増えるという、より深刻な「ドラッグロス」の状況に陥らないかを心配する。

 国内におけるドラッグラグは、00年代はじめごろにも医療関係者らの間で問題視された。

「かつて問題となったドラッグラグは、行政や医療機関の努力もあって10年代半ばまでにグッと縮まりました。しかし、現場の感覚では、遺伝子解析や、ゲノム診療技術の開発が急速に進んだ4~5年前ごろから、国内での未承認薬がまた増えてきたように感じます」

著者プロフィールを見る
池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

池田正史の記事一覧はこちら
次のページ