軸足でしっかり立てていることがこの動きを可能にしているという。

「このフォームは、打者にはものすごく球が速く見える。リリースまでなかなかボールを見せてくれないから。加えて、力感のない腕の振りがこれに輪をかける。体感的には170キロくらいじゃないか」

◆中学3年時から常時140キロ台

 ただ課題も指摘する。

大谷翔平にはスライダーがあった。佐々木はフォークのほかに、もう一つくらい魔球的な球種が欲しい。速球が抜けるなど、まだ粗削りでのびしろばかり。故障さえなければ、誰も見たことのない投手に進化できる」

 彼の出身地である岩手県で20年以上行われている「岩手県Kボール野球大会」(以下、KB大会)の影響もある。

「朗希は中学3年時から常時140キロ台の速球を投げていました」と話すのは、岩手県KB野球連盟の下川恵司理事長だ。長年中学生を指導し、県の選抜チームでは佐々木を指導した経験もある。

「Kボール」とは軟球と同一の構造を持つが、重量と大きさを硬球と同じにして反発係数も抑えたボールで、2000年に開発された。同県では翌年からこのボールを使用したKB大会が開催されている(17年からは軟球「M号」を使用)。

 同大会には部活動を引退した中学3年生が参加。県内14地区でそれぞれ選抜チームを作り、7~10月にある大会に臨む。佐々木は沿岸部のチームに所属していた。

 KB大会の独自ルールが投手のレベルアップに効果を発揮しているという。その一つが広いストライクゾーンだ。その効果を下川さんはこう語る。「打者は積極的にバットを振る。ストライク判定が広いため、投手も全力で投げ込める。これが投手を育てる。今では毎年各チームに1人は130キロ台の速球を投げる子が出てきています」

 投手にかかる負担が少ないのもKB大会の特徴だ。能力の高い投手が何人もチームにいるためで、下川さんは「一人が長いイニングを投げる必要がない」と話す。中学時代、肩や肘への影響を考え、公式戦でほとんど登板がなかった佐々木にとっては、「KB大会でマウンドに上がり、強豪チームと戦った経験は良かったと思います」(下川さん)。

 シーズンはまだ序盤。プロの洗礼をもはねのける若武者の躍動に期待する。(本誌・唐澤俊介、秦正理)

週刊朝日  2022年4月29日号

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秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

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唐澤俊介

唐澤俊介

1994年、群馬県生まれ。慶應義塾大学法学部卒。朝日新聞盛岡総局、「週刊朝日」を経て、「AERAdot.」編集部に。二児の父。仕事に育児にとせわしく過ごしています。政治、経済、IT(AIなど)、スポーツ、芸能など、雑多に取材しています。写真は妻が作ってくれたゴリラストラップ。

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