「こんばんは。がん治療医の押川勝太郎です。今日も日曜日恒例のがん相談飲み会を開始します。今日の飲みものは──」
日曜日の夜7時。視聴者のがんにまつわる悩みについて、押川医師がリアルタイムで相談にのるという、いっぷう変わった飲み会が始まった。チャットで送られた質問には全部答えるというスタンスで、気がついたら2時間以上経っていることもざらだ。
押川医師はこのオンライン飲み会だけでなく、定期的にがん情報を動画サイトで配信している。動画配信は4年ほど前から始め、現在、1千本ほどが公開されている。
動画サイトでの配信にこだわり続ける理由は、がん情報があふれる中、患者には正しい知識を身につけてほしいからだ。
「例えば、テレビドラマに出てくるがん患者。たいていはかわいそうな人として描かれます。タレントのがん告白も、その治療法は万人に当てはまるわけではありません。不正確ながん情報に対しては、私たちが監督して修正する。新しい技術を活用してがんに立ち向かっているという感じでしょうか」(押川医師)
動画サイトでは、押川医師以外のがん治療医が登場したり、サバイバーが登場したりしている。
一方で、こんな患者のケースを紹介した動画もある。ステージ4の大腸がん患者。治療がうまくいって薬をやめることができた。だが、その後に自殺してしまう。
「がん患者さんのなかには、治療が人生のすべてになってしまっている人がいます。しかし、治療が終わっても人生は続きます。また、消化器がんは5年で再発リスクはほとんどなくなりますが、乳がんは10年ぐらい続きます。不安とどう向き合うかは、医者は教えてくれません。サバイバーの声が必要なのです」
その上で、「患者さんが自ら動くことでできることはかなりある。そのお手伝いをしたい」と話す。(ライター・山内リカ)
※週刊朝日 2022年3月18日号