よしの女性診療所院長で産婦人科医・臨床心理士の吉野一枝さんは、女性の体は年齢とともに複雑に変化すると言う。

「個人差はありますが、女性の多くは閉経すると性欲自体が落ちます。性欲は男性ホルモンと関係します。女性がもっている男性ホルモンのピークは25~26歳で、年齢とともに少しずつ下がっていき、さらに閉経後は女性ホルモンも激減しているので分泌液も減り、性交痛が出てきます。性欲がわかない上に痛いとなればする気はなくなりますよ。早いと40代からまったくしたくないという人もいます」

 更年期症状はホルモン補充療法、性交痛はゼリーやローションの使用、レーザー治療などで緩和することはできる。だが、それ以前に男性側の姿勢が問題だ。夫たちはいつまでたってもろくに愛撫もせず、「挿入・射精」を目的とした性交を女性に押しつけてくる。だから女性はセックスそのものを回避したくなるのだ。

 挿入・射精だけではなく、全身の性感帯を刺激し、愛のある言葉を交わしながらお互いを慈しむ楽しい行為が本来のセックスだと吉野さんは言う。

「男性には、“膣(ちつ)ペニス性交”にこだわるな、それ以前に女性の体をよく知りなさい、と言いたい。ただ、男性が一方的に悪いわけでもないんです。つまりはコミュニケーション不足。女性だって、痛くても痛いと言わない人が多い。『どうせわかってくれないから、自分が我慢すればいい』と考えたり、さっさと終わってもらうために感じているフリをしたりする女性は、すごく多いんです。だから男性はそれでいいと思ってしまう」

 そういう状態が続き、50代になると、「もう我慢できない、と女性が拒否する。男性が、どうして急に……となるのもわかりますよね。お互いに自分をさらけ出してコミュニケーションを図ってこなかったから、50代になってすれ違いが顕著になってしまうんです」。

 女性がセックスを拒否するのは大きく分けて、

▽それまでの関係性により精神的にパートナーを受け付けない▽性交痛がある▽性欲自体が減退している──の三つが関与しているようだ。

次のページ