林:フランスの男の人と結婚して、パリに住もうとも思わなかったですか。

加賀:結婚したいと思うような人とは会わなかったわね。東京では上昇志向のおにいさんばっかりだったけど、パリではふつうの子は「僕は肉屋に生まれたからずっと肉屋でいい。大事なことは、今夜何を食べるか、どこへ行くか、誰と寝るかだ」という話をするの。どこの男の子もよ。「これよね、人間にとっていちばん大事なことは」と思って、パリに来てほんとによかったって思いましたね。

林:そのあと日本に帰ってきて、劇団四季で「オンディーヌ」の主役をなさったんですね。そういえば4年前、倉本聰さんのドラマ「やすらぎの郷」で石坂浩二さんと一緒にお出になってましたけど、元カノや元妻が共演なさってて、昔を知ってる私はびっくりしてしまいましたよ。

加賀:ほんと? 何の違和感もなかったですよ。

林:あのころ、石坂さんと加賀さんって日本でいちばんステキなカップルという感じでしたけど。

加賀:えっ、ウソでしょ? だってほんとに仲間だもん。彼氏だった時期もほとんどないのよ。同じ事務所にいたというだけで。

林:あら、そうなんですか。

加賀:私が彼を呼んで「四季」に入れたのは確かだけど、その時点でも彼はただの慶応ボーイで、毎日毎日私にバラを持ってきてくれるみたいな、そういう人で。私はそんなに好みのタイプではなかったよ(笑)。

林:そうだったんですか。

(構成/本誌・直木詩帆 編集協力/一木俊雄)

加賀まりこ(かが・まりこ)/1943年、東京都出身。「涙を、獅子のたて髪に」(62年)で映画デビュー。「泥の河」「陽炎座」(ともに81年)でキネマ旬報助演女優賞受賞。「麻雀放浪記」(84年)など映画を中心に活躍するほか、劇団四季の「オンディーヌ」にも出演。映画、舞台、ドラマなどで幅広く活躍。近年の映画出演作に「スープ・オペラ」(2010年)、「神様のカルテ」(11年)など。自閉症の息子を持つ占師を演じる、54年ぶりの主演映画「梅切らぬバカ」の公開が今月12日に控える。

週刊朝日  2021年11月19日号より抜粋