ヨーロッパ軒総本店(福井)のソースカツ丼
ヨーロッパ軒総本店(福井)のソースカツ丼

 余り肉の有効活用として始まった新メニュー。これこそがカツ丼初めて物語のはずだが……。

 実はこれに先立つ大正2(1913)年。ソースにくぐらせたカツをご飯の上にのせたソースカツ丼が世に出ていた。

 提供したのは、当時やはり早稲田にあった「ヨーロッパ軒」。ドイツから帰国した初代店主の高畠増太郎氏が、ウスターソースのおいしさを知ってもらうために考案した料理だという。

 現在は福井市で営業を続ける同店の3代目・高畠範行さんが説明する。

「祖父の増太郎は18歳のときから、ドイツにあった日本人倶楽部という日本人向けレストランで、和食職人として働きました。どこまで正確な話かわかりませんが、後に総理になる加藤高明が外交官としてイギリスに行くとき、船のコックとして一緒に渡英。外務省の縁でドイツの仕事を紹介してもらったそうです。それから6年。見合いのための一時帰国中、明治天皇が亡くなりました。喪に服せと渡航自粛させられたため日本にとどまり、大正2年に開かれた料理発表会に参加したときに披露したんです」

 それが好評を博したので、同年11月にソースカツ丼を看板とする料理店を早稲田に開いた。

「進取の気性に富んだ学生さん相手がいいと思ったようです。でも夏休みの間は商売にならないので、その間だけ葉山に店を出して営業しました。その後、1年を通じて同じ店で商売をしたいと考え、大正6年に横須賀に移転しました」

 店は6年後に起きた関東大震災で倒壊。増太郎氏は郷里の福井に帰り、繁華街に出店した。

「開業当初は仔牛のカツレツを使っていました。豚肉を使うようになったのは福井に移ってからです。非常に細かいパン粉を使用することでカツに余分な油を含まず、肉とソースのうまさを堪能できるようにしています」

 市内には追随する店が相次いだ。そのため福井県ではカツ丼といえばソースカツ丼なのである。

◆醤油できるなら味噌でもできる

 卵とじではない、独特のローカルカツ丼はほかにもある。新潟市や群馬県の一部では、カツを醤油ベースのタレにくぐらせてご飯にのせる。

次のページ