林:メイコさんはひばりさんのお母さんから「仲良くしてやって」って言われたんでしょう?

中村:はい。ひばりさんとはジャンルが違うから、一緒にお仕事したこともないし、知り合う機会もなかったんですよ。でも、ある日突然「美空ひばりの母だけど、ちょっとうかがってもいい?」って声をかけられて、私、何か悪いこと言っちゃったかしらと思ったら、ちょうど(小林旭さんと)離婚したあとで、「メイコちゃんみたいに、ふつうの家庭を持って仕事をしている姿をあの子に見せてやりたいから、ときどき遊びに行かせていい?」って。

林:ちなみに、ひばりさんがメイコさんのお宅に来るとき、お土産持っていらっしゃるんですか。

中村:持ってきませんね。

林:あ、大スターは持ってこないんだ。キャビアの詰め合わせとか持ってくるかと思ったけど(笑)。有名な伝説で、メイコさんの家にタクシーで行くときに、ひばりさん、お財布を忘れて、降りるとき運転手さんに……。

中村:「私、美空ひばりだけど、ツケといて」って言ったら、「美空ひばりという証拠がどこにあるんだ」って言われたんですって。それで、いつもしてる大きなマスクをはずしたら、スッピンでわからなかったらしくて、「何か証拠は?」って言われて、「(美空ひばりの声色で)証拠って言われてもねえ、メイコ」って。

林:あ、そっくり(笑)。

中村:「だから『リンゴ追分』をワンコーラス歌ってやったの」って。そしたら「いいものを聴かせていただきました。お代はけっこうです」って。「でも、千いくらかだよ」って怒ってました(笑)。

林:その運転手さん、一生の思い出ですね。

(構成/本誌・直木詩帆 編集協力/一木俊雄)

中村メイコ(なかむら・めいこ)/1934年、東京都生まれ。父は作家の中村正常、母は女優チエコ。2歳8カ月のとき、映画「江戸っ子健ちゃん」のフクちゃん役でデビュー、天才子役と呼ばれ、テレビの草創期から活躍。NHK紅白歌合戦の第10回から3年連続で紅組司会を務めたほか、ラジオ、舞台など出演多数。57年に作曲家、神津善行と結婚。長女は作家のカンナ、次女は女優のはづき、長男は画家の善之介。自身がトラック7台分のものを手放した経験を書いた『大事なものから捨てなさい』(講談社)が発売中。

週刊朝日  2021年10月8日号より抜粋