中村メイコさん(右)と林真理子さん (撮影/張溢文)

林:驚いたんですけど、ご主人の神津(善行・作曲家)さん、ピアノも手放しちゃったんですって?

中村:そう。楽器は全部手放しましたね。「もうピアノで作曲する時代じゃないから」って。私も、古い台本とか写真とか、ほとんど捨てちゃった。カンナ(長女・作家)には「お母さん、ちょっと薄情ね」って言われましたけど。

林:でも、親友の美空ひばりさんからもらったお手紙とか時計は、「私が死んだらお棺の中に入れてね」ってカンナさんにおっしゃってるんでしょう?

中村:そう。なんだか捨てられなくてね。

林:そういえばこのあいだ、次女のはづきさんが女性誌でお母さまのことを書いていらして、文章がうまくておもしろくて、すごく文才があるのでびっくりしました。

中村:そうですか? 喜びますよ。

林:そのエッセーによると、長い廊下があって、たくさんの人が住んでるヘンテコなおうちに住んでたって書いてありましたけど。

中村:そうなんですよ。娘が小さいときに何回も引っ越したんですけど、そのときはマンションのワンフロア、3軒分をすべて借りていたんです。その1軒分に神津の母に住んでもらって、真ん中の家のリビングはみんなが集まるところにしていました。そのころはまだいちばん下の男の子(善之介)がいなかったので、そのリビングの横はカンナとはづきの部屋。そして、もう1軒分に私たち夫婦が住んでいました。そこへ美空ひばりがしょっちゅう来るんですよ。

林:ああ、ひばりさんが。

中村:はじめはびっくりしました。客室なんかないから、「あなた、どこに寝る?」って聞いたら、「あんたたち、どこで寝てるのよ」「このダブルベッドに2人で寝てる」「じゃ、私も一緒に寝る」って言うんです。「えっ、3人で?」って聞いたら、「うん。私が真ん中で寝る。美空ひばりはいつもセンターだから」って(笑)。

林:神津さん、寝られませんよね、美空ひばりさんの横で(笑)。

中村:「眠れなかった」と言ってました。

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