経済思想家 斎藤幸平さん (c)朝日新聞社
経済思想家 斎藤幸平さん (c)朝日新聞社

 コロナ禍にあっても海外進学を視野にいれている学生は少なくない。東大を経てアメリカ、ドイツで学生生活を過ごした経済思想家の斎藤幸平さん(34)に海外進学のメリットを聞いた。

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 芝高(東京)を卒業してアメリカのウェズリアン大に進学したのは、高2での文理分けに疑問があり、受験勉強しかしてないのに、大学に入る際に専攻を決めたくなかったからです。この大学はリベラルアーツ(一般教養)教育で、幅広く学べるのが魅力的でした。

 高1のときにイラク戦争が起こり、アメリカの知識人が積極的に発言をする姿が印象的でした。私は理系でしたが、歴史や哲学など幅広く学びたいと考えるきっかけになりました。

 それから(イギリスの)ラッセルや(フランスの)サルトルら思想家の本を背伸びして読みました。英語の勉強のために英語で読み、内容にも関心を持ちました。

 東大も受験したのは、アメリカで奨学金が取れないときのためです。向こうの学費は高額ですから。ウェズリアン大から奨学金を取れたので、3カ月だけ東大に在籍してアメリカに行きました。

 東大では理科二類でしたが、政治学や哲学の授業をたくさんとって、日本にも貧困問題や労働問題があることを知り、衝撃を受けました。このときから資本主義の問題や(『資本論』の著者でドイツの思想家)マルクスを意識し始めました。

 東大が楽しくてアメリカでは学びたい勉強はできなかったですね(笑)。短い期間でマルクスなどの大量の文献を「読んできて」と言われるんですが、それでは深い議論はできない。

 だけど、格差社会を目の当たりにしたのは大きかった。ハリケーンの被害にあった人のために、炊き出しのボランティアに行ったんです。黒人の方の家は壊れたままで、貧しい人が多くいました。リベラルの資本主義の議論はきれいごとと感じました。

 そこでマルクスを学ぶためにドイツの大学院に行きました。でも、マルクスを大学で研究している人はあまりいなかったです。ドイツに行ってから気づきました。

 だけど、マルクスを学びたい人が集まってくるので研究仲間ができました。博士課程に進むとき、マルクスの新しい全集を編集する国際研究チームに入れました。その内容で博士論文を書き、優れたマルクス研究に贈られる「ドイッチャー賞」を日本人で初めて受賞できました。

 留学によってアメリカ、ドイツ、日本の視点から考えられるようになったのは自分の研究者としての強みです。

 留学には不安もありますが、挑戦すれば「なるようになる」というのが教訓ですね。

週刊朝日  2021年4月16日号