と打ち明ける。新田さんもこう話す。

「他の利用者さんに迷惑にならないようにと、施設の職員から鎮静作用がある薬を使ってほしいと要求されがちです。それで表面上はおとなしくなりますが、結局、のみ込みが悪くなって摂食障害や嚥下(えんげ)障害を起こすリスクが高まります。それで肺炎を起こして入院というケースもあります」

 三つめの理由は、入居者の家族と医師らのコミュニケーションが取りにくいということだ。

 在宅医が家族のいる自宅を訪れる在宅医療と違い、施設には、面会などに来る頻度が少ない家族も多く、施設側、医師、家族の密なコミュニケーションが取りにくい。そのため信頼関係が築きにくくなってしまう。

 家族が「お任せ」している場合は特にそうで、家族に十分な説明がないまま減薬して症状が悪化すると、施設や医師、看護師が家族から責任を問われる可能性もある。こうしたことを危惧し、減薬をためらうケースもあるという。いずれにしても、高齢者施設での減薬は障壁が多い。

 そんななか、前出のらいふは、積極的に減薬に取り組んでいる。同社は東京大学などと共同で、運営施設での減薬の効果を研究し、その成果をまとめた。

 期間は19年3月~20年3月、31施設(24時間介護付き有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅)で、本人や家族が減薬に同意した入居者のべ1832人(平均年齢86.0歳)が対象。このうち約7割は、軽度認知障害か認知症で、要介護度の平均は2.5。多くの人に高血圧や心不全などの基礎疾患があった。

 データが得られた891人の56%にあたる501人が減薬を達成できた。薬剤数は7.2剤から5.3剤に、薬剤費は平均633円から同286円に減った。

 共同研究者の一人で、東大大学院薬学系研究科の客員准教授、五十嵐中さんは「減薬で薬剤費が減らせたことよりも、重要なこと」として、生活の質(QOL)や日常生活動作(ADL)が維持されたことを挙げる。

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