こうした問題を解決する方法として、薬の処方を見直す「減薬」が採り入れられている。

 サヨ子さんのいる施設で定期的に診療にあたる医師で、多剤服用の問題に詳しい、たかせクリニック(東京都大田区)理事長の高瀬義昌さんは、「実は高齢者に使える薬はそれほど多くない」と言う。

「脂質異常症の薬や睡眠薬など、すべてとは言いませんが、漫然と投与されていることが多い。便秘薬の酸化マグネシウムでさえ、使い方によっては血液中のマグネシウム濃度が上がって、中枢神経に異常をもたらす場合があるので、使わないほうがいいことがある」

 薬の処方を適切にする取り組みは、在宅医療を中心に進みつつあるが、高齢者施設ではなかなか進んでいないのが現状だ。

 訪問診療を行い、高齢者施設を運営する新田クリニックの新田國夫さん(同国立市)はその理由の一つとして、入居者の人数を挙げる。

「実は、服用していた薬を減らすという作業は、薬を増やすよりも手間暇がかかり、エネルギーがいります。少人数のグループホームなどでは対応できますが、何十人もの利用者さんが入居されている施設では、往診の際は一度に十数人を診なければなりません。一人ひとりにそれだけ多くのエネルギーや時間や手間をかけにくいのです」

 減薬は単純に薬を減らせばいいというものではない。入居者それぞれの健康状態や病態を細かく観察し、それに応じた処方を考え直さなければならないからだ。安全性を確保するためにも、一人ひとりに時間をかける必要がある。

 二つめの理由は、他の入居者への配慮という視点を優先させるところだ。

 有料老人ホームの紹介事業などを手がけるニュー・ライフ・フロンティア(同中央区)代表取締役の吉田肇さんは、

「BPSDのような症状があると、そのときの介護が大変になります。介護職員から対応が難しいと声が上がったときに、安易に薬に頼ってしまう。そういうことを是とする施設が少なくありません」

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