山之井さんは「特に、75歳以上の方の食事中のむせは命にかかわる入り口になると認識すること、むせは予防できることを知ってほしいです」と強調する。

 むせを予防し、かつ、食事をおいしく食べるためには姿勢に気を付ける。「前かがみになったり、下を向いたりでなく、前方を見て背筋を伸ばして食べるほうが、のどのさまざまな機能が適正な位置で働き、のみ込みやすくなります」と説明する。また、窒息を起こしやすい人の特性として、「一人で食事をする」「窒息を起こしやすい食べ物を好む」「不適切な姿勢で食べる習慣がある」などが挙がった。

 山之井さんは「地域に誰かと一緒に食べる場があれば、日頃の食事の状況を見てもらえます。家庭外の居場所づくり、仲間づくりは大事です」と助言する。

 もう一つの環境面については、「口腔内のメンテナンス」、特に入れ歯の手入れをしていなかったり、合わないまま使っていたりすることや、メガネも昔作ったまま使っていることが窒息と関連があると研究で指摘された。「家族や介護者が忙しく気持ちに余裕がないときの関わり」も窒息事故とつながる可能性があるという。

 いま、オーラルフレイル(口の機能が虚弱になること)への早期対応が呼びかけられている。嚥下機能低下はその一つ。「口の機能のささいな衰えを放置することが身体機能の低下を招き、要介護状態へとつながります。高齢者自身がおいしく食べることを意識するとともに、医療・介護専門職や家族がタッグを組んで、食環境を整えていくことが重要です」と山之井さんは話している。

週刊朝日  2020年10月30日号