嚥下機能の低下を示す次の六つの症状に注意する必要があるという。

 (1)食事中にむせる(うまくのみ込めず、食道でなく気道に入る)。(2)口の中に詰め込むように食べる(のみ込む前に食べ物で気道を狭くする)。(3)一口量を何度ものみ込む(のみ込み切れず少量が口腔内に残る)。(4)食事時間が長くなる(1回でのみ込める量が減っている)。(5)食事をすると、のどにたんがからむようなガラガラ声になる(のみ込み切れない食べ物が声帯に付着して声が出にくくなる)。(6)口の中が乾く(唾液[だえき]の分泌が悪くなって、咀嚼[そしゃく]した食べ物が塊にならずのみ込みにくくなる)。

 高齢になると、食べ物をかむ力、唾液量、舌で塊を作る運動機能などが低下し、それらがのみ込みの悪さにつながる。

 道脇医師は「窒息事故は、これらののみ込み機能の低下、食品の種類と量、食べる環境(姿勢や場所など)のバランスが崩れたとき起こります。高齢者は日によって体調に波があるため、誰がいつ窒息を起こすか、予測が非常に難しい。交通事故対策のように事例を収集解析してデータベース化するなど、社会的に予防対策に取り組む必要がある」と提言する。

 このように、窒息は身近な事故と言える。

 日常生活では、どのように予防すればいいか。

 東京医療保健大学医療保健学部看護学科講師の山之井麻衣さん(看護師・介護支援専門員)は高齢者が窒息につながる要因をインタビュー調査によって明らかにしている(*2)。インタビューは、65歳以上の高齢者14人、自治体で働く保健師や社会福祉士、地域包括支援センターで働く看護師、ケアマネジャーから聞き取った。

「高齢者個人」と「環境」の側面から分析した結果、次のような特性があることを導き出した。

■一人で食べない 良い姿勢も大事

 高齢者個人の特性については、「うっかり詰まらせてしまった」「目が悪くなっているので、ちょっとしたくぼみが見づらい」など身体機能の低下を意識していなかったり、「むせたって、気にしない」と老化をあきらめていたり、認知機能が低下していたりする傾向があった。

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