去年の夏に一人娘の遺骨の一部が見つかった、という夫婦がいた。娘は28歳だった。ずっと捜し続けていたそうだ。手がかりが何もない日々がようやく終わった。別の取材では、震災で妻を亡くし、苦しい日々の末に再婚をして新しい人生を始めた男性にも出会った。ルポルタージュでは、自身のそのときの年齢を書き込むようにしているという。

「9年間、ずっと見てこなければわからないことが多い。2011年には悲しみと苦しみしかない。2020年だけでは復興してきれいになった町に見えるかもしれない。人も町も変わってゆく。あくまでも2020年に57歳の僕が見ている風景なんだ」

 娘が行方不明の間、夫妻は毎週、慰霊碑に出かけて、好きだった缶コーヒーを一緒に飲んでいたという。「空き缶がごみ袋にいくつも入っていて、持ち上げるとカランカランと音がなる。小説だったらこの音を書くだろうなと思った。物語が立ち上ってくる、よりしろのようなものを探しながら歩いているのかもしれない」

 被災地に通い、取材をすれば、どうしても時間は取られる。作家として、小説を書く上でプラスなのかどうかはわからない、という。

「だけど、僕の根っこはフリーライター。一期一会が好きなんだよね」

(朝日新聞文化くらし報道部・中村真理子)

■THIS WEEK
2月16日(日)
東京・下北沢の本多劇場で「劇団あはひ」の公演を鑑賞、アフタートークに参加。
2月17日(月)
文化放送のドキュメンタリーのロケで宮城県山元町へ。山元町への訪問は十数回を数える。
2月18日(火)
前日に続き、山元町を歩く。終電まで仙台の知人の店で過ごす。
2月19日(水)
確定申告の準備で税理士に会いに行く。角川書店を退職した1986年以降、申告の書類が自分の生きた証し。
2月20日(木)
大学の研究室で新学期の準備をした後、病院へ。2016年に心臓のカテーテル治療をして以来、毎月チェックに通う。体重は20キロ減らした。
2月21日(金)
文芸誌「新潮」の連載「荒れ野にて」を執筆。
2月22日(土)
前日に続き、「荒れ野にて」を執筆。400字詰め原稿用紙換算で25枚分。若い頃は24時間で60枚書けたが、もうそこまではできない。

週刊朝日  2020年4月10日号