「野村さんはこう言われましたか。この通りです。あなたを野村さんだと思って答えます。何でも聞いてください」
ホテルから野村さんに電話をし、「狙いダマはメモの通りでしたよ」と言うと、びっくりしている私に驚いたようで、
「そんなこと、わかっていますよ」
と、素っ気ない。打者を観察して狙いダマを見破ることにかけては、絶対の自信があるようだった。
私が野村さんによく言ったのは、
「野村さんは、例えて言えばエピソードの宝の山に埋もれている。私はそれを読者がわかるように順序良く整理をして並べるだけですよ」
ということである。
私は「野村克也の目」を2年間担当したおかげで、文章の書き方が少しわかったような気がしている。今も書かせてもらっていられるのは、ひとえにそのおかげである。
野村さんはこの連載によって得たものがあったのか。あったとすれば、どんなことか。聞きたいところだったが、もはやかなわぬ夢となった。(元週刊朝日編集長・川村二郎)
※週刊朝日 2020年2月28日号掲載記事に追記

