ちなみに、森澤医師の病院では、手術後の感染症が重篤化しやすい心臓の手術や、変形性股関節症やひざ関節症に対して行われる人工関節置換術などに対して、事前に患者が特定の薬剤耐性菌を持っているかをチェックしている。その上で、問題となる菌が見つかったら、手術前に使う抗生物質の種類を考慮し、その患者には入院時から個室に入ってもらい、医療スタッフもガウンや手袋を装着して入室するなど、感染防止対策が徹底されるという。

 このように、薬剤耐性菌の存在は手術を受ける人にとってみても大きなリスクになる。

 こうした事態を避けるためにも、普段から「抗生物質が不要な病気には使わない」ことが重要となる。

 抗生物質がいらない病気の最たる例が、今の時期にはやっている風邪だ。

「鼻の風邪、のどの風邪、おなかの風邪など、さまざまな風邪がありますが、いずれも原因の9割は細菌ではなく、コロナウイルスやライノウイルス、アデノウイルスといったウイルス感染によるもの。抗生物質は細菌に効く薬なので、ウイルス感染による風邪には効きません」

 こう話すのは、かどた内科クリニック(東京都世田谷区)の門田篤院長。

 一般的に、風邪にかかると2~3日目に症状が強まるものの、その後は徐々に回復して、1週間~10日ほどで治っていく。門田医師によると、抗生物質を使っても、この症状の経過はさほど変わらないことが、疫学的に証明されている。

「ですから、こうした一般的な風邪には抗生物質ではなく、解熱薬やせき止めなどを使って症状を抑える対症療法を中心に行うようにしています。状況に応じては漢方薬も使います」

 おなかの風邪も同様だ。この季節に起こるのは、ノロウイルスなどによるもの。やはり抗生物質の効果は期待できない。下痢による脱水を予防するための水分補給が治療の中心になる。

「梅雨時から夏にかけて増える食中毒の下痢にも、抗生物質を使う必要はありません。成人男性を対象にした検証では、抗生物質を使った群と使わなかった群とでは、治療効果に差が出なかったことが明らかになっています」(門田医師)

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