日本化学療法学会と日本感染症学会合同の調査委員会などが、診療所の医師を対象に実施した調査では、患者や家族が抗生物質の処方を希望したときに、「不要であることを説明しても納得しなければ処方する」が約5割、「希望通り処方する」が約1割、「説明した上で処方をしない」が約3割だった。

 どれくらいの抗生物質が不要な治療に使われているかについても、ある程度わかってきた。岩田医師は東日本大震災の後の抗生物質の使用状況を調査。すると、86%が不適切処方だった。自治医科大学の調べでも、6割近くが無効な風邪などの病気に処方されていた。

 もちろん、単なる風邪だと思っていても、実は細菌による感染症だったということもある。

「薬を処方されたら、どんな目的の薬なのかを聞いてほしい。説明できない医師のところにはかからないほうが賢明です」(岩田医師)

 必要な抗生物質はしっかり飲み終え、人にあげたりしないことも大切だ。

「今後の問題」として、医療問題に詳しい特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所の上昌広理事長が指摘するのは、薬剤耐性菌のグローバル化だ。

 新型コロナウイルスの爆発的流行は中国湖北省から起こったが、強い毒性を持つ薬剤耐性大腸菌がいま、南アジアを中心にじわじわと広がっているという。下痢だけでなく、命にかかわる敗血症などを起こすこともあるそうだ。

「抗生物質が薬局で医師の処方なしでも買えるインドやバングラデシュでは、抗生物質が乱用されていて、そこから強い毒性のある薬剤耐性菌が出てきているのです。新型コロナウイルスのように爆発的に広がることはありませんが、そうした国を旅行した人がこの菌を持ち帰ってきています。国を超えた対策が今後は必要でしょう」(上医師)

 命にかかわる感染症にかかったときに、抗生物質が効かなかったら──。最悪の状況に陥らないためにも、抗生物質は決して「安心のために予防的に使う」ものではないことを、私たちも肝に銘じておきたい。(本誌・山内リカ)

週刊朝日  2020年2月28日号