新型コロナウイルスによる肺炎に抗生物質が効かないというのも、風邪と同じ理由だ。抗生物質の使用については、世界保健機関(WHO)もホームページで、「予防または治療の手段として使用しないで」と呼びかけている。

 抗生物質をやたらと使ってはいけない、もう一つの理由は副作用。命にかかわることがあると警鐘を鳴らすのは、前出の岩田医師。「抗生物質だってある程度のリスクはある。安全な薬だから念のため使うという類のものではない」

 代表的な副作用には、下痢をする、発疹ができるといった比較的軽めのものが多いが、不整脈などで突然死を招いたケースもある。アナフィラキシーショックという重篤なアレルギー症状や、血糖のコントロールが悪くなるといった副作用も、報告されている。

 抗生物質がもたらす、もろもろの問題を解決するにはどうしたらいいか。今回、取材をした専門家が皆、口をそろえて言うのが、

「風邪で抗生物質をもらわない」

 ということ。抗生物質は安全で万能な薬というイメージは捨てたほうがいい。

「まずは、鼻水が出るとか、のどが痛いとか、その程度の症状なら医療機関には行かない。受診して病気をもらうリスクのほうが高いからです。症状がつらければ市販の痛み止めやせき止めなどを用いて、自宅で安静にしていましょう。“病院に行かなくても風邪は治る”という意識を持つことが大切です」(岩田医師)

 なかには、「風邪だから抗生物質をもらいに行く」と考える患者もいるだろう。日々、風邪の患者を診察する門田医師は、「ほとんどの患者さんは、抗生物質をほしがる」と打ち明ける。

「必要ないと言う人はごく少数です。ほかのクリニックでもらえなかったから、当院に来たという患者さんもいますが、不要であれば副作用が表れやすいことをお話しして、納得していただいています」(門田医師)

 AMR臨床リファレンスセンターの報告書では、調査した約5割の対象者が「風邪で医療機関を受診したときに抗生物質を処方された」と答え、約3割が、「風邪をひいたら医療機関で抗生物質を処方してほしい」と考えていることが明らかになった。

次のページ